少し街から離れた場所。山へ向かう途中の道。
そこにある一軒家にはコックが住んでいる。
コックは毎朝早く街へ向かう。コックの働くレストランが街中にあるからだ。
レストランの名前は、バラティエ。
コックはそこで、毎日ランチを作っている。
ランチは日替わりで、客が遠くの街からでもそれを求めてやってくるほど人気だ。
昼時はいつだって、店の前に大行列ができるほどに。
えんらえんらの初恋
お話しは過去にさかのぼる。
遠くはない、ほんの少しだけ。
まだコックがコックと呼ぶことができない頃。
それどころか、料理することすらやめていた頃。
女がいた。
女には、その身の分身とも言うべき人がいた。
二人は悪い事をした。
それは、殺されても仕方のないことだった。
しかし、女は思う。これはないだろうと。
殺されても仕方のないことをしたが、罰を受けるのは二人の内一人。
殺されるのは一人だと言う。
女は思う。なぜ、二人で死なせてくれないのだと。
どうしてこうなってしまうのだと。
そうして男は死んでしまった。
大切だと思うものを残して死んだ。未練だった。
しかし、仕方のないことだとも思う。
二人は一人ではないし、自分はそれなりの事をしたと知っているから。
それでも、本当は死にたくなんてなかった。
自分の何を渡してでも、大切な人の傍にいたいと思った。
男は命の尽きた身体で願った。
涙の流れない目を見開き続けた。
声の出ない喉を枯らし続けた。
すると、悪魔がやってくる。
いいとも、いいとも。
彼女もそれを願っている。叶えてあげるよ、その願い。
その代わり。
君の肉一握りと、心を少々頂戴な。
男は自分の何を渡してでも、大切な人の傍にいたいと思った。