「サンジ!てめぇ、ぼさっとしてんじゃねぇ!!」
レストランのピーク時はまるで戦場だ。
音は止むことを知らず、声もまた、言葉と呼ぶことのできない音になる。
「サンジっ!!!」
そんな場所でも、オーナーの声だけはサンジに届いた。
呼ばれている。
「はい!オーナー!!」
周りがどんなに早送りな世界でも、自分の時間は感じ取ることができる。
それだけサンジには余裕があった。
オーナーは睨むようにサンジを見つめ、サンジはその圧力に劣るまいと胸を張っていた。
「このスープの担当はお前だな?」
「はい。」
笑うことのないオーナーの目に、少しだけ歪めた口元が柔らかさを生む。
「お前、来週からランチの指揮をとれ。」
「え・・・。」
「明日、レシピを持って来い。」
言い終えると、オーナーはその日、一度もサンジを見ることはなかった。







頼りない赤い明かりの揺れるあの小さな部屋で、ロビンは静かに問う。
「コックさん、あなたはどうする?」
「どうって・・・。」
ロビンはサンジを見ることはしない。
どこか遠くを、その澄んだ目で見つめている。
「私は、」
私にはあの子が必要なの。
「いつだって、あの子が私の理由。」
「ロビンちゃん?」
「あれが何だろうがいいのよ、もう一度探すわ。」
「ロビンちゃん!」
声を荒げ、サンジはロビンを呼んだ。再び沈黙が生まれる。
サンジはロビンの言葉だけで、ロビンの求めるものが分かった。
それは自分も欲しいと望むものだからだ。
でも。
自分にはそれを止める心がどこかにある。まだ、止まれる心が。
そして、ロビンには。
「コックさん。」
分かっている。
「私にはね、」
ロビンには、それが。
「生きていくためには理由が必要なのよ。」
微塵も存在しない。
サンジは強く瞳を閉じる。
ロビンを止めることなどできないことは分かっていた。
その思いを変えることなど、自分にはできないことも。
唯一、それが可能な存在を、ロビンは取り戻そうとしているのだから。
「あの子が消える時が、私のいない時でよかったわ。」
「そうですね。」
もしかしたら、ゾロ自身が止めていたかもしれないから。
ロビンは小さく笑いながら言う。
「でもね、もしかするとあの子はこのことに気付いていたのかもしれない。」
だからこそ。
「あなたと二人きりの時を選んだのかもしれない。」
ゾロ自身が、本当はもう一度ここへ戻ることを望んでいたから。だからこそ。
「そうかも、しれませんね。」
何て哀しい姉弟なのだろう。
サンジは言葉にすることなく、静かに静かに憂う。
「じゃあ俺は、」
自分はゾロに。そして、ロビンに。何ができるのだろう。
ゾロは何を思ったのだろう。
自分は、何を望んでいるのだろう。