昼になるたびに思い出すのはゾロのことだった。
料理するたびに思い出すのはゾロのことだった。
眠る前も、眠った後も、目が覚めても。
それと同時に、夜中にランプ一つで尋ねてきたロビンを思い出す。
家に来ないでちょうだい。
ロビンの目が余りにも真っ直ぐで、真剣で、強い願いを感じさせて。
サンジはロビンの言うとおりにしなければならないと思った。
それでも、頭の中はゾロのことばかり。その思いは日に日に降り積もるばかりだった。







夕日が窓から部屋を赤く染める頃。ロビンとゾロは早い夕食を取っていた。
二人の夕食は静かで、食器のぶつかる音と、パンを千切る音がするだけだった。
そのため、たまに交わす会話は驚くほどよく部屋に響く。
「ロビン。」
「なぁに?」
「これからは、飯はロビンが作るのか?」
「美味しくないかしら?」
そんなことはないと、間髪いれずに言うゾロが愛しくて、ロビンはクスクス笑う。
ゾロは、そんなロビンに顔を赤くして、なんだよと口を尖らせた。
ゾロの目に少し淋しさが映っていることを、ロビンは知っている。だから言った。
「コックさんは、もう来ないわ。」
私が来ないでと言ったの。あなたを二度と失いたくないの。

食事を終えたゾロは月明かりの照らす部屋で一人、ロビンを思った。
ロビンはゾロと離れたくない。
ゾロもロビンと離れたくなかった。離れるつもりもなかった。
でも、このままサンジに会いたいと思えば、ロビンとさよならをしなければならないだろう。
そして、サンジともさよならだ。
これは約束だから。そういう約束だから。
ゾロは目を閉じた。
いずれ、必ず来るだろうと知っていた別れは、気付いていなかっただけでこんなにも近くにあるものなのだ。
何て幸せで、何て淋しいのだろうと、涙とともに心が溢れ出せばいいのにと。
しかし、今のゾロには流れる涙も、溢れる心もなかった。
これは約束だったから。そういう約束だったから。







迷いがないと言えば、それは嘘だ。
しかし、サンジの手には昨晩、ゾロを想って煮込んだシチューに、朝一で焼いたパン。
そして自家製のワイン。
太陽が真上に昇るいつもの時間、サンジはロビンの家に向かった。
ずっと考えた。うんざりするほどに。
そしてサンジはここにいる。
ロビンの願いを振り切って、ゾロに会うために。
真昼だと言うのに、ロビンの家である小屋の周辺は薄暗い。
見るからに人を寄せ付けないだろうと感じさせる場所に、サンジは立っていた。
扉を目の前に、叩く事が出来ない。
扉の向こうにはゾロがいる。気配がする。しかし、気配は一つではなかった。
サンジは急に怖くなった。
ロビンの言いつけを破ったこと。
そして何より、ゾロがサンジを気にも留めていなかったら。
そう思って、自分自身がなぜここで立っているのかを見失ってしまうのだ。
空気と一緒に、息を呑む。

トントン。
『どなた?』
サンジです。
『来ないでと言ったでしょう?』
・・・はい。
『帰って下さるかしら?』
そう言われて帰れるなら、ここへは来ません。
『そうね。・・・で?』
入れて下さい。
『出来ないわ。』
会わせて下さい。
『誰に?』

「ゾロ、会いに来た。入れてくれ。」