ロビンとゾロはテーブルに向かい合わせに座り、無言のまま動かない。
二人ともが動かなくて、まるでその部屋は時が止まっているかの様だった。
扉の向こうのサンジは、気配でそこから動いていないのが分かる。
ゾロはテーブルに並ぶ、まだ温かな料理たちを見つめた。
ロビンはサンジを入れないだろう。サンジも大人しく引くつもりはないだろう。
「ロビン。」
「ダメよ。」
自分しかこの世界は動かす事が出来ないのだと。
動かずに。目を合わせることなく。
「ロビン。」
大切な、何かを振り切るように。







目の前の扉は石の様に重いのではないかと思わせるほど、ゆっくりと開いた。
その入り口を塞ぎ、ロビンが立っている。
サンジはロビンに殴られると思った。ロビンの目からは敵意しか感じなかったからだ。
しかし、ロビンは動かず、ただサンジを睨んでいる。
「こ、これ!いつもの、頼まれてた飯!!」
搾り出した声は、詰まり物が飛び出したようだった。自分の声に驚かされる。
誤魔化すように謝ると、ロビンがふっと、困った顔で笑った。優しい笑みだった。
ご一緒にどうぞと招き入れられ、サンジは戸惑う。
扉を潜れば見慣れたテーブルに並べられた料理を前に、ゾロが座っている。
微笑んでサンジに、久しぶりだなと言った。
ロビンに導かれ、テーブルにつく。
ロビンとゾロが向かい合って座っているので、サンジは二人の間に向かい合うものなく座った。
とても居心地が悪かったが、ロビンと向かい合わせでなく、正直ほっとしていた。
それにしても。
食事の時間とは、と思う。人間三人が居て、これは何だと。
突然招き入れられ戸惑っているサンジはおろか、今まで食事の途中だったのであろうロビンもゾロも、何も話さない。
食事とはこんなに重いものなのだろうかと、サンジは再び思う。
誰かがいる沈黙は嫌いだった。
実際がそうでなくとも、悪いほうへ進んでいるのではと錯覚させるから。
錯覚は所詮錯覚。しかし、感じている本人が冷静に判断できるかはまた別で。
サンジは恐れていた。自分という異物を、この空間は受け入れていないと。
何でもいい、この張り詰めた空気を緩めることが出来ればと思い、口を開こうと思った。
例えば、今テーブルに並ぶ料理達の話をしよう。
また、例えば。サンジの持ってきたパンの話。ワインの話。
わざわざ探さなくとも、話に出来ることなど幾つも持っているのだ、ただ。
ただ、この場所に相応しいと思われるものが見えないだけ。そう、それだけ。
「この料理は東の料理ですか?味付けが違いますね。」
そうよと言い、ロビンはクスクス笑い始めた。
「私たちは東から来たの。何?コックさん、探りでも入れてるのかしら?」
下手くそねぇと、再び笑う。しかし、目は笑っていない。
いざとなればいつだって、サンジなどどうにでも出来るのだと、容赦ない視線。
サンジ自身、ロビンの言ったような意味などない。心外もいいところだ。
サンジは一番無難だろうと思ったことを言ったつもりだったのだから。
嫌な汗が背中をつたうのを感じる。
「ロビン。」
今まで一言も発しなかったゾロが名を呼ぶと、ロビンはごめんなさいと言い、食事に戻った。
もしかして、自分の質問にゾロも気分を悪くしたのだろうかと、サンジは焦る。
「あのっ、その・・探りとか、そんなつもりじゃなくて・・・。」
必死に言葉を探していると、ゾロは優しい微笑みで返してくれる。
「分かってる。お前はコックだもんな。料理のことで質問するのは変じゃねぇよ。」
ロビンが悪いんだ。変な言いがかりして。
再び、ロビンはごめんなさいと言った。こんなロビンは初めてだと思った。
食事を終え、ロビンが書斎で仕事をしている間、サンジとゾロは書庫で本を読んだ。
特に特別な話はしなかった。
以前のように、書庫にある料理の本を見て、ゾロが食べたいと言えば、サンジが作ってやるよと返す。
そんな会話だ。
それっぽっちだ。たった、それっぽっち。
かけがえのない、ささやかな時間だ。