その日以来、サンジは再びロビンの家に通うようになった。
以前と違うのは、ロビンとゾロと共にサンジも食事をするようになった事。
太陽が空の天辺にくる頃を目指してサンジは家を出て、来る道で買い物をし、ロビンとゾロの家で調理した。
ロビンは約束を破ったあの日のような刺々しさはなくなり、ゾロは相変わらず美味いと言って食べた。
ロビンが仕事でいない日は二人で食事をとる。
そうして静かに二人は近付いていった。







ゾロはサンジが来るようになってから、よく笑うようになったとロビンは思う。
それまで他人と会わせない様、外へ出さなかったのだ。
ロビン自身も極力他人と深く関わらないようにしていた。
他人と関わることで、自分達を知られることを恐れていたし、何より大切なモノを二度と手放したくなかったからだ。
しかしゾロはサンジと出逢ってしまった。皮肉にもロビン自身が切っ掛けとなって。
それでも、今のゾロを見て思う。
サンジと共にいる時、嬉しげに楽しげに。本当に幸せそうに笑う。
ロビンにとって、それは救いだった。
ゾロの笑顔はロビンを幸せな気持ちにさせていたから。







その日もまた、サンジは太陽が天辺にくる頃を目指して家を出た。
料理の材料を買い、フラフラと歩く。心はいつまでも弾んでいた。
そんな中、道の向こう側に見覚えのあるコック服の男を見る。男は片足が義足のため、歩みは不恰好だ。
サンジは驚いて歩みを止める。男が真っ直ぐ、サンジに向かって歩いてきたからだ。
「久しぶりだな。」
「・・・料理長。」







毎日毎日。ありったけの想いを込めて料理した。
そうすればゾロは喜んでくれたし、そんなゾロを見てロビンは微笑んでいたから。
そして、ロビンが笑うとゾロは嬉しそうだったから。
自分の作った料理で二人を幸せにしたかった。
サンジは、ゾロの笑顔がとても気に入っていたから。

いつもの時間より遅れてきたサンジを、ゾロは笑いながら迎えた。ロビンはいなかった。
サンジはずっと黙っていてゾロは不思議に思ったが、笑っていたので不安にはならなかった。
ゾロは、できる事ならサンジにはずっと笑っていて欲しいと思っている。
「今日の飯もやっぱり美味いな。」
これは何て言うんだ?と、卵でフワリと包まれたそれを口にした。
サンジは相変わらず黙っている。
目の前の料理からサンジに視線を移すと、ゾロをじっと見ていたサンジと目が合った。
「店に戻れることになったんだ。」
サンジは幼子のように笑っている。
今度はゾロが黙ってしまった。驚いたからだ。
「今朝、前働いてた店の料理長に会って、今晩から来いって、よく分からねぇけど。」
今まで黙っていた分、塞き止められていたものが溢れ出すように、サンジは勢いよく喋り出した。
だんだんと料理の専門的な言葉も混じってきて、ゾロは全部分からなかった。
しかし、サンジが再びコックとして働ける事。
そしてそれをサンジがとても喜んでいる事を、その様子から感じ。
だから、ゾロをとても幸せな気持ちにさせた。
かつて、オーナーはサンジに言った。
『お前は料理人として欠いているものがある。』
サンジはそれが何なのか分からなかった。誰よりも早く、誰よりも美味く作ることができるのに。
しかしそれは、ちっとも幸せではなかった。楽しくなかった。
ただただ目の前にある食材に手を加える。
パイを焦がした見習いコックが、失敗したというのに何故笑っていられるのか。
仲間のコックが珍しい食材を見つけたと飛び跳ねていても、何が嬉しいのか。
サンジは何も思わなかった。しかし今なら分かると、そう思う。
サンジはゾロが好きで、ゾロのために料理をする。
それはサンジにとって、何ものにも変えられない、かけがえのない時間だった。
「サンジ、嬉しそうだな。」
「ああ、嬉しい。俺は料理が好きだ。コックでいたい。」
サンジが嬉しいから、俺も嬉しい。ゾロは優しく笑った。
ゾロの笑みが、サンジの胸に鮮やかに咲く。擽るような風が吹く。
サンジは思わずゾロを抱きしめていた。
強く。この喜びが、ゾロのずっと深いところまで染み渡る様に。
「店に戻ったら俺、きっと美味いって認められるコックになる。」
「ああ。」
「世界一の料理を作るよ。」
「ああ。」
「ゾロのために。」
「・・・ああ。」







悪魔に渡したはずのもの。空っぽのはずの場所。
秘密だよ。王様にだって、神様にだって秘密なんだよ。







誰かが遠くで笑う声がした。