抱え込むように腕を放さないサンジから、ゾロはそっと離れようと動いた。
苦しかったのだろうかと、サンジはその腕をやんわりと緩める。
「レストランに戻るなら、サンジと飯を食うのはもう終わりだな。」
「え?」
笑っていたサンジの顔が、何を言っているのだと歪む。
「そりゃ、昼間にここに来るのは無理だろうけど。ゾロがレストランに食べに来たらいい。」
ロビンちゃんも一緒にと。
和らげた腕を、ゾロから離すことなくそのままに、ゾロの顔を覗き込む。
ゾロは笑ったままだ。
「俺はな、サンジ。ここから出ちゃダメなんだ。」
「何だよ、それ。」
ゾロに微笑みを返そうとサンジも笑おうとするが、引きつった笑みを浮かべることしか出来ない。
「本当はサンジにだって会っちゃダメだったんだ。」
ロビンが頑なにサンジを拒んでいたことを思い出す。
もう来ないでくれと、夜遅く暗い中、サンジの家まで訪ねて来てまで。
「そんなの。」
そんなのねぇよ。
触れているだけだったサンジの腕に、じんわりと力が篭る。
「そんなの、嫌だ。」
折角、レストランに戻れるのだ。
ゾロの言う、本当のコックになれるのだ。
もしかすると、将来店だって持てるかもしれない。
でも。その喜びは、サンジにとってゾロがあってこそなのだ。
始まりは、ゾロのため。たったそれだけなのだ。
「だったら俺は店には戻らない。」
今までと同じように、ゾロの元へ料理を運ぶだろう。
そして、下らない話をして二人で過ごそう。
「俺は、お前が好きなんだよ。」
だから、お前がいなきゃ意味無いんだ。
サンジは必死にゾロに言った。縋るように。
そんなサンジを、ゾロは見つめ続けた。哀しそうに、瞳を揺らしながら。
口を開くことなく、じっと。堪えるように。







手を伸ばして、何にも触れない。そこには何もない。名残もない。
錯覚だ。
ありもしないものを、目の前にそれを持っている人がいる。
憧れなのだ。あるのならばと。
感じることも出来ないはずなのだ。触れることさえできず、突き抜けることもない。
トンネルだ。
ほら、風が通り抜ける音がする。







「私は、あなたが哀しい顔をすることは嫌なの。」
ロビンは言った。
ああ、と。ゾロは窓の外を見ながら答える。
「だから、本当はコックさんとも会って欲しくなかったの。」
ああ。ゾロは変わらない。
「でも、あなたがそれを許さなかった。」
サンジ。音にすることなく、ゾロが呟く。
「それでも。あなたがとても幸せそうで、私は嬉しかった。」
「ロビン。」
視線をロビンへ移し、ゾロが呼ぶ。
ロビンはそっとゾロの顔を隠すように抱きしめた。
「私がもっと魅力的ならよかったのに。コックさんに負けないくらい。」
揺れる声で、懸命に笑いながらロビンは言った。抱きしめられて、ゾロにはその顔が見えない。
「何言ってんだ、バカみてぇ。」
ふふふと優しく揺れ、ロビンが笑っているのにゾロは安心する。
「あなたが大切なの。大好きよ。」
こうして抱きしめていれば、もう離れ離れなんてないと思っていた。いや、願っていた。
ゾロは伝わる温もりが心地よく、ゆっくりと目を閉じる。
「ありがとう、姉さん。」







ありがとう。ごめんなさい。