君の黄色い小鳥/10









僕のこと嫌いにならないで。僕のこと嫌いにならないで。
神様お願い、傍にいさせて。魔法をとかないで。








サンジは泣き出してしまった。
えっえっと、しゃがみ込んで息を吸っている。
「ゾロにバレちゃったよ。ゾロにバレちゃったよ。」
繰り返して泣いている。
「泣くなよ、お前が下手くそなんだ。中身は鳥のままなんだろ。」
へっと笑って、ゾロは言った。本当はこんな言葉を掛けたいのではない。
猫が戻ってきた。心配そうにサンジを覗き込む姿に、ゾロは羨ましいと思った。
どうして、小鳥の時のように頭を撫でてやれないのだろう。
猫は、にゃぁと優しく鳴いて、サンジの顔を舐めた。
「そうだよねぇ。もう、ダメだよねぇ。」
何を言われたのか、サンジは涙を拭いながら言った。それでも、止まらない。
サンジは立ち上がり、猫に着いていく。猫はゆっくりと、サンジを振り返りながら玄関へと歩いた。
途端にゾロは不安になる。
「おい、どこ行くんだよ。」
サンジは泣いたままだ。変わりに猫が振り向く。昨日と同じ、軽蔑の目。
「なぁ、おい。」
「ごめんね。ゾロ、ごめんね。」
サンジはそのまま出て行った。

呆然と立ち尽くす。
この家は、小さな自分には大きすぎる。
放心したままゾロはキッチンに戻った。食事用のテーブルには朝食が用意されている。
味噌汁からは、ほんわかと湯気が出ていた。
椅子に座って、お箸を持った。
「いただきます。」
サンジには一度も言わなかった言葉。
口にして。
「旨いなぁ。」
サンジには一度も言わなかった言葉。
食べ終わって。
「ごちそうさまでした。」
サンジには一度も言わなかった言葉。
「今日は、宿題は後からするから、どこか行こうぜ。」
「その猫も連れて行ってやるよ。」
「弁当作って。俺、手伝うから。」
「サンジ。」
こんなに沢山。ゾロはサンジに渡していない。
「サンジ、行かないで。一人にしないで。」
その場で泣いた。
大きな家は、小さな子どもの泣き声をよく響かせた。
もう遅い。サンジは行ってしまった。
父も母もいない。サンジもいない。ゾロは一人ぼっちだ。
こんなに大きな家で。誰も、誰もいない。
だから嫌なんだ。こうなるから嫌だったんだと分かった。
大好きだった父さんも、大好きだった母さんも、いなくなってしまった。
大好きな小鳥も、好きだと言わなかったのにいなくなってしまった。
みんな行ってしまう。一人になってしまう。
どんなに好きだと言っても、例え好きだと言わなくても。
誰もやってこない山の中。ゾロの家。
小さなゾロが大きな声で泣き叫んでも、誰にも聞こえない。
山にだって聞こえない。










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気持ちって何とか誤魔化そうとしても、やっぱり全部が誤魔化せるわけではないでしょうね。