君の黄色い小鳥/11
ごめんね、ごめんなさい。僕は嘘つきだね。
君が好きなのに、こんなに好きなのに。君は僕の全部なのに。
屋敷を出ても山から離れようとしないサンジに、ナミは呆れていた。
サンジは膝を抱えたまま、まだ泣いている。
「もういいじゃない。ほら、顔上げて。」
止まらないサンジの涙を拭ってやると、ううと言って顔を上げた。
涙と鼻水で酷い顔だ。
「俺、もうゾロといれないの?」
「だから出てきたんでしょ?」
うーと唸って、再び泣き出してしまったサンジにナミは溜息をつく。
「ゾロ、悲しいかな。俺、凄く悲しいよ。」
「さぁね。」
「ゾロ、泣いてるかな。俺、凄く泣いてる。」
「確かにね。」
素っ気無く答える。
あのクソガキが泣いてるかどうかなんて、どうでもいい。
「あいつはきっと泣いてないわよ。」
「何で?」
あいつはサンジ君のこと、ちっとも必要としてないもの。
人間って、何て我侭なのかしら。あれは我侭なんて可愛いものじゃない。汚い。汚い。
それでも言うんだろう。
「ゾロは優しいよ。」
やっぱり。
この鳥頭にはもう何も言うまい。
「今日は山にいてもいいわ。出たばっかだし、サンジ君の気持ちも考えて。」
「うん。」
「でも、明日は出るわよ。サンジ君の気持ちも考えて!」
「うん?」
ナミが黙ると、サンジは再び泣き出した。
ゾロ、ゾロと時々名前を呼ぶ声に、ナミは酷く苛立たされた。
暗くなり始めた頃、サンジも随分と落ち着いた。
やっと泣き止んだかと、ナミはほっとしながらサンジを見ていた。
「ありがとう、ナミさん。」
「ええ、朝から晩まで泣き止むのを待たされました。」
ナミが言うと、思い出したのかサンジが再び涙ぐむ。やれやれだ。
「お腹、大丈夫?」
「減ってない。」
「朝から食べてないでしょ。」
「俺、人間になって体おっきくなったけど、食べるのは鳥の時と一緒でいいの。」
「省エネ。」
川の近くまで下りようと、サンジを連れて歩く。少し歩くと、小さな川に着いた。
山の中には灯りなんて一つもなくて、月の光だけが頼りだ。
猫のナミは夜でもよく見えるが、人間になってしまったサンジはどうなのだろう。
「見える?」
「全然見えない。鳥の頃からだから、当たり前かな。」
人間になったからと言って、性質が急変するわけでもないようだ。
「何で、人間になったのかしら。」
「うん。」
チロチロと川の水を飲む。サンジも手で掬い、ゴクリと飲み干した。
沢山泣いたから、喉が渇いたのだろうと思った。
「不思議よね。」
「神様にお願いしたんだよ。」
神様?ナミは首をかしげる。
「そう、神様。」
思い出しているのか、サンジは笑いながら遠くを見ている。
神様。どして僕には、大好きなあの子が泣いている時に声を掛けることが出来ないのですか?
神様。どうして僕には、大好きなあの子の涙を拭ってやる事が出来ないのですか?
「喋った事はないけどね?」
「私もないわ。」
こんなにあの子が大好きなのに。こんなにあの子の傍にいたいのに。
神様。どうして僕は鳥なんですか?どうして僕は人間ではないんですか?
「きっと煩かったんだろうね。あまりにも、どうしてどうしてって言うから。」
そう言うサンジは笑っている。
「人間になってたとき、凄く嬉しかった。これでゾロと一緒にいれるって。」
でもとナミは思う。そんなに上手くいくだろうか。
あのロビンと言う弁護士のおかげでサンジはゾロと暮らすことが出来るようになった。
あの女は、一体。
「ねぇ、あの女は?」
聞くと同時に、ガサガサと茂みから音がする。
「こんなところに居たのね。」
ロビンだった。
遠くで山犬が吠えている声がする。
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神様もウンザリするほどのサンジのお願い。どのくらい強く願ったんだろ。