君の黄色い小鳥/12
僕は何を見ていたんだろう。君の何を。
優しい優しいと、僕にくれるそればかりで、頭の悪い僕はちゃんと見えてないのだ。
玄関の扉をそっと開けた。
中を覗くと、当たり前の静けさがあるだけだ。
サンジは恐る恐る中へ入る。
ロビンもナミもここにはいない。
あの時、戻りなさいと言うロビンからサンジを守るようにしていたナミ。
そのナミを振り切ってまでも戻ろうと思ったのは、ロビンの言うことが正しいと思ったからだ。
『あなたはどうして人間の姿になったの?誰のために願ったの?』
その通りだ。
サンジが人間になったのはゾロのためだ。
どうして、ゾロにサンジが鳥だとバレたところで離れなければならないのだ。
俺はやっぱり頭が悪い。
サンジはキッチンを覗く。キッチンには当たり前に灯りは点いていない。
入り口から覗くと、テーブルの上は朝のままだ。
しかし、お皿は空っぽ。ゾロが食べたのだろう。
昼は何を食べたのだろうと、冷蔵庫の中身を見るが、何も減ってないように思った。
ゾロは朝から何も食べてないのだろうか。
広い家の中、ゾロを捜す。沢山の部屋。たった一つを除いて、ゾロはどこにもいない。
サンジは外へ出た。
洋館の裏手、守る様に、寄り添うように立つ楠。サンジの家だった。
スルスルと上って、窓に一番近く寄った枝へ辿り着く。
窓には十分届く。そのまま窓から部屋にだって入れるだろう。
暗い部屋を覗きこむと、机に突っ伏しているゾロが見えた。顔は見えない。
ただ、机の上を何やら撫でている。優しく優しく触れている様に見えた。
コンコンと窓ガラスを叩く。小さな鳥だった自分が、ゾロに会いに来た時の様に。
すると、ゆっくりとゾロが窓を見た。まだ顔は見えない。
窓をそっと開いて、サンジを見つける。ゾロは泣き腫らした目で笑った。
「何だ?餌が取れないのか?いいよ、俺のとこに来たら。いつだって腹いっぱいにしてやるよ。」
そう言ってサンジの頭を撫でる。まるで鳥だった頃の様に。
「今日は学校が休みだったから、パンはないんだ。」
クッキーをやろうなと、机に戻って引き出しを開いている。
自分が小さな鳥だったころ。以前のままだ。まるで同じ。おかしい。
俺は。俺はもう。
「人間じゃないのか?」
「ほら、チョコチップクッキーだ。これは旨いんだ。」
袋から取り出してサンジに渡すゾロ。
「ねぇ、ゾロ。俺、もう。」
「そうだ、名前をつけよう。何て名前がいい?」
「ゾロ、ねぇ。」
「サンジ。そうだ、サンジにしよう。」
笑っているゾロ。でも、真っ赤な目が痛々しかった。
サンジともう一度呼んで、窓の外のサンジに抱きつこうとする。
窓から落ちたら危ないと、サンジはゾロの部屋へ飛び込んだ。
ゾロは黙ったままサンジに抱きついている。
それが嬉しくて、サンジはゾロの背に腕を回した。
「ねぇ。」
「何、ゾロ?」
「正体がバレたからいなくなるの?」
「えっと・・・。」
サンジが考えていると、ゾロはそのまま続ける。
「どっか行くの?小鳥に戻っちゃうの?」
「分かんない。そうかなって思ってたんだけど、まだ戻ってない・・・よね?」
自信なさげにゾロに聞く。
「ねぇ、いいじゃん。戻ってもいいよ。」
「え!?」
サンジは嫌だ。折角ゾロと同じになったのに。
「戻ってもいいから、又どっかに行くの止めてよ。」
一人にしないでよ。
ゾロが一層サンジに強くしがみ付いた。
サンジは答えるようにゾロを強く抱きしめた。そうすることが出来るこの体に、とても感謝した。
「いなくならないよ。元に戻っても、鳥になっちゃっても。ずっと一緒だよ。」
ずっと、一緒だよ。
next
ずっと一緒。