君の黄色い小鳥/5










何か欲しいとかじゃないよ。僕が望んでいるものは。
でも、贅沢言ってもいいなら・・・。僕のこと、好き?








洗濯が終わったら、今度は掃除だ。
二人しか住んでいないのに、部屋数は無駄にある。
ナミはよく忍び込んで、空いている部屋を使ったりもしている。
そんな部屋を、サンジはいつも埃が溜まらない様に気を配り、隅々まで磨く。
ゾロの大切な家だから綺麗にしてたいと本人は言うが、ただの潔癖なのかもしれないとナミは呆れている。
絨毯の敷き詰められた廊下を歩いて、次の部屋へ行くと思えば、一つ部屋を飛ばした。
「何でこの部屋は飛ばすの?」
「あ。あ、そこは。」
言いよどんで。
「ゾロの部屋だから。」
また困った顔で笑うのだ。ナミは酷く気に入らない。
苛立った気持ちのまま、扉の隅を引っかく真似をすると、サンジが慌ててナミを抱き上げた。
「ダメだよ!ナミさん!傷付けちゃ!!」
傷付いているのはあんたよ、この鳥頭!とは言わない。ナミは扉を睨んだままだ。
「この部屋に入るなって、あのクソガキが言ったの?」
「クソガキって・・・。特に何も言われてないけど。」
嫌だろうなと思ってと、サンジは言う。
「いいじゃない。掃除してあげるんだから。あげる!んだから。」
あげるを強調して、恩着せがましく言ってやる。少しイライラは鎮まった気がした。
「でも。」
「まだ掃除したことないんでしょ?汚くなってるかもしれないじゃない。」
黙ってれば分からないんだから。
最後の一言に、それもそうだとサンジが折れて。ゾロはいないのに、そっと音を立てないように部屋に入った。
部屋は綺麗だ。他の部屋と同じく、使ってないのではないかと思うほどに。
ただ、机の上には消しカスがあって、プリントがあって。ベッドシーツに皺がある。
それだけは、確かにゾロがここにいたのだということを教えてくれる。
「ガキの癖に、味気ない部屋。」
ふんと鼻で笑って、ナミは部屋の出窓に飛び乗った。
サンジはその窓を開いて、空気の入れ替えをする。
窓の外には大きな楠がある。枝が一本、触れられるほど窓の近くまで伸びていた。
大きくなった。
息を思いっきり深く吸う。
他の部屋にはなかった、温かみ。ゾロの匂いがいっぱいの部屋。
「ちょっと、サンジ君見てよ。」
いつの間にか、窓から離れて机に上っていたナミが笑っている。
サンジも机を覗き込んだ。
「あいつ、才能ないわね。へったくそ〜。」
ほら、サンジ君も笑ってやりなさい。今のうちよ。
ペン立ての中、蓋もせず挿された彫刻刀で彫ったのだろう。
机の右の隅の方に直接。小さな、小さな小鳥の姿。
誰が?
ゾロが。
サンジは笑えなかった。驚いて、それどころではなかったからだ。
一歩下がって、窓の外の景色を見る。伸びた楠の枝。外からは鳥の鳴き声が聞こえる。
この鳴き声は誰だろう。
泣きそうだと思った。嬉しくて。
口を聞いてくれない、乱暴な態度のゾロ。いつもと同じ。
でも。
やっぱりゾロはサンジの思ったとおりのゾロだと。
誰にも、ナミにも内緒で笑ってみた。










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危ないので彫刻刀には蓋をしましょう。