君の黄色い小鳥/6










君は知らない。僕のこと。
それでいいんだ、そんなの知らない。関係ない。僕は君が好き。








初めて聞いた声は想像通り、大人の男の声だった。
でも、父を思わせるそれとは裏腹に言動は酷く幼い。
『ゾロを苛めるな!!!』


「私はね、あの時。彼を連れてきてよかったと思ったの。」
何故だか、自分が確信を持っていたと思う。
「私はね、あなたのお母さんが大好きなの。小さな頃からずっと傍にいた。」
ゾロは窓の外を見たまま、知ってると素っ気無く答える。
「いいえ、知らないわ。これは、あなたのお母さんと私しか知らないから。」
「なら聞くなよ。」
言っておきたかったのよと、ロビンは柔らかく微笑む。
「だから、あなたのことも大好きよ。」
「じゃあ、やっぱりロビンが一緒に暮らせばいいんだ。」
「ダメ。私の傍はあなたのお母さん。」
よく分からない、それが正直な気持ち。でも、何となく。多分、ロビンの一番は母なのだ。
「父さんが一人になる。」
「よく妬かれるの。」
そう言ったロビンはとても楽しそうだったから、ゾロも笑った。
サンジがゾロを庇った時。その言動に驚いたけれど、とても嬉しかった。
そう言って抱きしめられた時。縋り付いていた。
静かにしてくれと、放っておいてくれと思っていた自分が、安らいでいた。
サンジの手を始めて握った時。温かいと思った。
「彼は?」
はっと、ミラーを見る。再びロビンと目が合った。
「いい者?悪者?」
サンジ。
今日もまた扉をぶつけてしまった。謝ろうと思ったのに、出た言葉は「邪魔」だった。
美味しいかと聞かれたのに、今日も一言も答えなかった。
いってきますも言わなかった。扉の向こうから、いってらっしゃいと聞こえたのに。
「わかんない。」
俯いてしまう。
嫌いじゃないのに、嫌じゃないのに、突っぱねようとしてしまう。
「あなたの思うとおりにしなさい。彼には選べないから。」
私もと、言ってロビンは黙ってしまった。
暗がりの中、大きな門が見える。その先はゾロの家だ。
車が近付くと感知式のライトがついた。
それに気付いたのか、玄関の扉が開いて中の灯りと影が一つ見える。サンジだ。
ゾロは車を降り、運転席側の窓へ寄る。ウイーンと音がして、窓が開いた。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
帰りは山道で暗いからと、ロビンがいつも送ってくれるのだ。いつもの別れ。
ロビンはゾロの頭を優しく撫で、そのまま頬も撫でる。
「じゃあな。」
「ええ、また月曜日。」
そう言って、ゾロは背を向け掛けて行く。
玄関の扉を開いて待っているサンジは、逆光で顔が見えないけれど、きっとまた笑っているのだ。
今日こそは言えるだろうか、ただいまと。
ゾロ、おかえりと優しく言って、扉を大きく開いて迎えるサンジに、ゾロは目をやった。
そんなゾロに、サンジが苦笑したのを見て、きっと睨んでいると思われたのだと思う。
こんな自分とサンジが悲しい。
口は開かなかった。
今日もただいまは、キッチンへ向かうサンジの背にそっと触れただけだった。










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背中にでしか、気持ちが語れない。