君の黄色い小鳥/9
嫌ってもいいよ。気持ち悪いって思ってもいいよ。
でもね、お願い。それを言葉にしないで欲しい。
トントンと、部屋に扉をノックする音が聞こえて目が覚めた。
朝。
ゾロは布団に丸まったままだ。
今日は土曜日だから学校は休み。
『ゾロ、朝ご飯できたよ。起きてる?』
いつものサンジの声だ。言うだけ言って、決して中には入ってこない。
扉を開けられないのだと言っているように。
『下にいるよ。今日はパンじゃないからね。』
そう言って遠ざかる足音に、ゾロは耳を済ませていた。
聞こえなくなるとベッドから身体を起こし、着替える。
今日こそは、おはようと言うのだと、ゾロは階段を下りた。
キッチンに入ると味噌汁の匂いがする。出来立ての、温かい香りだ。
ふと視線を感じて足を止める。サンジはテーブルについてゾロを待っている。
では、誰が。
振り向いても誰もいないことに、ゾロは不思議に思う。まさか、と足元に視線を落とした。
みかん色の毛の猫。
昨日の事は夢ではないと、頭から一気に冷水を掛けられたように感じた。
「あ、ナミさん!」
サンジが駆け寄ってくる。
「ごめんね、ゾロ。」
そう言って猫を連れて行ってしまった。
少し離れた場所で、出てきちゃダメだよと、サンジの声が聞こえる。
昨日の事は、夢じゃない。頭の中が真っ白になる。
「お前は何だ!?」
ゾロはその場で叫んでいた。
何だ、何なのだ。何者だ。
そっと、サンジがゾロの前まで歩いてきた。猫はもういなかった。
「ご飯、冷たくなっちゃうよ。ゾロ、食べよ。」
「答えろ!!」
お前は何だ。
「昨日、さっきの猫と喋ってるところ見た。」
「え、何で??昨日?」
サンジは本当に驚いているらしく、可哀想なくらい慌てている。
「何で猫と喋ってるんだ。お前何なんだ。」
「あの、えっと。えっとね、ゾロ。えっと。」
「俺は何となく分かった。」
必死に言葉を探しているサンジを無視して、ゾロは続ける。
「昨日、お前の言ってたこととか。お前を見て、いつも思い出すものとか。」
「え、え?」
「俺はお前を初めて見た時も思ったよ。いつもそうだ、いつもお前を見て思い出す。」
ゾロが始めて喋ってくれて、でも早口で、怒ってて。サンジは大混乱だ。
「恩返しだとか言ってたな。」
「あ、え?ゾロ?」
お前は何だ。その答え。
片目で餌取りが下手くそ。そして、その羽は。
「あ、ダメ!ゾロ、言っちゃダメだよっ!!」
サンジはやっと理解したのか、ゾロの口を押さえようとする。
でも、もう遅い。
いつもいつも思い出す。
金色が太陽に反射する度。黄色い、あの羽。
「お前は、あの時の片目の小鳥なんだろ。」
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バレた。