2.
辿り着いた港町。
活気ある町。町民たちも元気で、とても良い町なのだろう。
しかし、この活気はそれだけではない。
ゴーイングメリー号が港へ着いたその時。
町では号外と叫ばれ、一つのニュースが飛び交っていた。
それは、とても大きな事件。
『6000万賞金首、ロロノア・ゾロ公開処刑!』
絶好のチャンスじゃねぇかと、ルフィは笑った。
「何言ってんのよっ!」
これでは確実に海軍が絡んでくると、ナミは責めるが、ルフィは笑ったままだ。
「いや、これはチャンスだ。」
「どういうことかしら。船長さん。」
言葉を撤回しないルフィに、ロビンは尋ねる。
人に言わせれば、ルフィの行動は常に無謀なのかもしれないが、ルフィ自身ただのバカではない。
そこまで言い張るからには何か策があるのだろうと、ロビンは思ったのだ。
「ゾロはここの海軍基地にいるんだよな?」
「情報ではそうあったわね。」
そして、そこまで大きく告知されることなら、それは真実なのだろう。
手に入れた情報では、ゾロは今、海軍基地の処刑場で磔にされている。
「ってことは、俺たちはゾロの居場所を見失うことはないわけだ。」
「そうね。」
「そして、」
そして、何より海軍に拘束されている状態のゾロは。
「俺たちから逃げられない。」
海軍からでなく。処刑からでなく。
「ゾロはもう、俺たちから逃げられない。」
ニヤリとルフィは笑った。
ああ、コイツは相当腹黒いなと、サンジはぼんやり思う。
ルフィの笑みにつられ、ロビンも笑った。
「確かに。海軍が彼を抑えててくれると言うわけね。」
「そうだ。」
ナミは、ゾロは猛獣か何かなのと、溜息を付き額に手をあてていた。
「ゾロが捕まってるってことは、ゾロの荷物やら何やらは基地の中にあるのか?」
今までの会話に呆れ顔だったウソップは、ぴっと表情を引き締める。
「そういうことになるわな。確実にあの三本刀はゾロの手元にはないだろ。」
海軍もバカじゃない。
チョッパーは難しい顔をする。
「それに、俺やっぱりゾロの状態が気になる。」
身体的にもだけど、精神的にも。
ふぅとタバコの煙を吐き出し、サンジも考え込むように視線を足元に向けた。
「確かに、マリモマンが簡単に海軍に捕まってるって辺り気になるな。」
「あー、あいつ前も海軍の偉い奴の息子の狼切って捕まってたぞ。」
だから心配するなと、ルフィが笑う。
すかさずウソップが、笑うとこでも安心するとこでもねぇだろと、突っ込んだ。
「何にせよ、慎重に行動すべきね。」
海軍の動きも気にしなければならないが、一番気を張らなければならないのはゾロ本人にだ。
「うふふ。とても楽しくなりそうね。」
「おー、絶対逃がさねぇ!」
「あんた達ねぇ・・・。」
楽しそうなルフィとロビンに溜息を付きながらも、ナミも口元が笑っている。
この時を待っていたと、意地悪な笑みを浮かべていた。
「お前らはサドだ。ゾロ・・・俺はあくまでもお前の味方だからな。」
ウソップはゾロを思って涙を堪えながらも、拳は強く握り締められている。
「俺、ちょっとゾロの病気のことで気になることがあるんだ。それを確かめたい。」
絶対にゾロを悪いようにはしない、もう投げたしたくないと、チョッパーは医療道具の入ったリュックを力強く抱きかかえた。
そんな仲間達を、サンジはとても頼もしいと思った。
短くなったタバコの火を消して、まいったなぁと苦笑する。
「あのマリモ君には言いたいことが山ほどあるからな。」
お姫様の救出じゃないのは残念だけど。
「俺も、頑張っちゃうかね。」
未来に選択肢が全くなかったとして。
何も選ばなかったあの頃だけは。彼を一人きりにした、あの後悔だけは。
もういらない。
彼が選ばざるを得なかった孤独の未来を紡ぐ事が出来るのは。
彼の守りたかったモノ達だと、自分達なのだと。
今は強く信じている。
信じているから。
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