4.
「あ、怪しげな部屋発見。」
そう言って、ヒラリと屋根裏から降りてしまうサンジの背中がいつも通りなのに安心し、ウソップも続く。
が、着地に失敗して転んでしまう。
いたた・・・と、強く打った尻を擦っていると、サンジに名前を呼ばれる。
「何だ?マヌケだと言いたいのか。ちくしょう。」
サンジは振り向く事をせずに、違うとだけ答え。
「愛の力だ。」
一言。そう言った。
「アホか。」
ウソップが顔を上げると、サンジの背中と、その後ろにゾロの宝が見える。
雪走り。三代鬼徹。和同一文字。
鞘に収められているはずのそれらは、ギラリと光ったように見えた。
まるで連れて行けと言うように。
主人の元へ。ゾロの元へ。
呼び寄せられるかの様にふらりと近付くと、刀の隣にある棚の上にボロボロの鞄が見えた。
「ゾロのか?」
「さぁ、中身見りゃ分かるんじゃねぇの?」
お邪魔しま〜すと言いながら、鞄をあさり出すサンジにウソップは呆れ顔だ。
どこか楽しそうなサンジは放置して、ウソップはゾロの宝を持ちやすい様に紐で纏め抱える。
「おい、俺はいつでも動けるぞ。」
サンジを振り返るが、答えはない。
「サンジ。それゾロのか?そうじゃないなら戻しとけ。」
答えはない。サンジは動くこともやめていた。
「お前なぁ、いい加減にしろ。」
ウソップはサンジの肩に乱暴に手を乗せ引き寄せた。
サンジの持っていた鞄が足元に落ちる。
中はほぼ空なのだろう、布同士の擦れる音がしただけだ。
「お前、ホントおかしいぞ。」
具合悪いのかと声を掛けながら、ウソップは落ちた鞄を拾おうとサンジの足元に屈む。
ペタンコの鞄の口から覗くものが見えた。
白い、紙?
そっと掬い上げる。
何故、そっと触れたのかは分からない。そうしなければならない様に思ったからだ。
紙の質は硬く、手触りからそれが写真なのだと分かった。
所々が汚れていて、それは土だったり、シミだったり。
あまり大切に扱われていないようだが、持ち主は毎日それを眺めていたのかもしれない。
汚れの一番の原因は手垢によるものだったからだ。
ウソップは首を傾げながら写真を裏返す。
「っ・・・。」
言葉が詰まった。急に涙が溢れ出しそうになったのだ。
驚いた身体が、必死に力を込めて塞き止め様としていた。
ウソップの見た薄汚れた写真には、満面の笑みで肩を組むルフィとウソップ。
格好付けてポーズをとったチョッパー。
二人、控えめながらも笑っているナミとロビン。
少し機嫌の悪そうなゾロと、意地悪な笑みを浮かべゾロの肩に顎を乗せるサンジ。
そしてその後ろにはゴーイングメリー号の姿。
「ゾロ・・・。」
もう涙を堪えることは出来ないと思った。
この写真のネガはもうない。自分が燃やしてしまったからだ。
世界でたった一枚の写真。
大切な仲間の写真。
ゾロは持っていたのだと、ウソップは写真を抱きしめるように胸に当てて、泣いた。
ありがとう、ありがとう。
震える声で呟き続けた。
そして佇むサンジ。
足元でウソップが泣き出してしまったというのに、サンジは変わらず動く事をしなかった。
じっと、手元を見つめたまま。
その手には見覚えのある小さな箱とペン。
サンジが微かに震える手で、箱を開くと中には綺麗に折りたたまれた紙が数枚入っていた。
以前、箱の中には一枚の紙しかなかったはずだ。
ゾロはあれからもずっと、こうして大切なものたちを書き出していたのだろうか。
たった一人で。
そっと紙を取り出すと、箱の底が覗く。
泣き出しそうな、優しい笑みで。
そこにある、口では伝えられることのなかった、その言葉を見つめる。
箱の底に書かれたその文字は、汚れることなくそこにあり続けた。
大切なモノ達を隠している箱の、一番奥底の言葉。
サンジは目を閉じ、手の中の小さな箱に額を当てた。
祈るようなその姿で。
「ゾロ、俺もだ。」
祈るように、そんな言葉を。
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