5.






「来た。」
食い入るように、目の前の大きな扉を見つめていたルフィが言った。
同時に、基地の中が騒がしくなり始める。
サンジとウソップだ。
ルフィが振り向き、後ろに立っていたロビンと目を合わせた。
「行くぞ。」
ロビンは無言で頷く。
二人は拳を握り締め、固く閉ざされたままの扉へと向かい合った。
右腕をぐっと後ろに引いた後、ルフィは身体の特性であるゴムの力を使って扉の一番高い場所までその腕を伸ばす。
その姿を確認すると、ロビンはそっと胸の前で手をクロスさせた。
ふわりと、花が舞う。
足元から何本もの腕が現れ、ロビンの身体を軽々と扉の上へと押し上げた。
ロビンが扉の上へ足を着けた丁度その横へ、ゴムの反動で空を跳んだルフィが着地する。
下に広がる景色は広い処刑場。
多くの人がここで罪人が殺される様を眺めるのだろう。
処刑場には一人の男が磔にされている。
「まるであの時みたいだ。」
ルフィは呟く。
「船長さん、どうやら見張りもいないみたいだけれど。」
「ああ。上手くやってくれてるじゃねぇか、サンジとウソップ。」
ニヤリと、ルフィは笑みを浮かべ、空中に地面があるかの様に一歩進んだ。
当然のことながら、足から真っ直ぐ地面へと落ちていく。
ズンと、大きな音を一度たてた。
着地した時、踏ん張るような格好だったルフィは、よっこいしょと身体を起こし、何事もなかったかのように歩き出した。
高みから覗き込んだ処刑場は、中から見るより広く感じる。
距離はそれほど離れていない。
視線の先には一人の男。十字に磔にされた男。
ロロノア・ゾロ。
ルフィは、今は遠い過去に思いを馳せる。
あの日も。そうだ、あの日もこうだったと。
磔のゾロを目の前に足を止める。
ゾロは気付いているだろうに俯いたままだ。
しかし、ルフィにはその顔が薄っすらと笑っている様に見えた。
「魔獣はどこかな?」
少し弾ませた声でルフィが言う。
ピクリとゾロが反応した。
「俺は今、一緒に海賊になる仲間を探しているんだ。」
静かにゾロが顔を上げる。緑の髪にはいつものバンダナを巻いたままで。
本当にあの日のままだと、ルフィはまた笑う。
あの日。二人の、ルフィとゾロの出逢った日。
「俺はルフィ。縄解いてやるから仲間になってくれ。」
ああ、そうだ。お前の宝、あれを海軍から奪い返してやる。
「そして俺から刀を返して欲しけりゃ、仲間になれ。」
くくっと、ゾロが笑った。
ロビンは二人のやり取りを静かに眺めている。
「今、俺の仲間が基地の中で騒ぎを起こしてる。」
でもすぐにバレるだろう。
「そうすれば、もうすぐここに海軍が来るだろうな。」
ゾロはじっとルフィを見つめ、言っていることに耳を傾けている。
「俺は逃げる。」
トレードマークの麦藁帽子を一度脱ぎ、深く被り直す。
「でも、お前は逃げらんねぇ。」
俺がもし抵抗すれば、奴らも何かしらしてくるかもしれねぇ。
ルフィは深く被った帽子の隙間からゾロを覗き見て笑う。
「だったら、お前は流れ弾にでも当たるかな。」
でも、俺がその縄を解けば別だ。
静かなゾロの瞳。燃えるようなルフィの瞳。
ロビンはそっと処刑場へ降り立ち、足音を立てることなく近付いた。
「俺と一緒に海軍と戦えば政府にたてつく悪党だ。」
このまま死ぬのと、どっちがいい?
ゾロが微かに声を立てて笑っているのが見える。
ルフィも笑っている。
ロビンは二人のやり取りがよく分からないが、二人の間に流れる空気に不安はない。
笑うのをやめ、ゾロは真っ直ぐにルフィを見つめた。
その瞳は、先ほどの静かなものとは違う。燃えるような、そんな瞳。








テメェは悪魔の息子かよ・・・。
まぁいい、ここでくたばるくらいだったらなってやろうじゃねぇか、海賊に。








海賊に。





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