6.
いつも探していた人。
いつも自然と探してしまい、いないのだと気付いて苦しくさせる人。
彼は今、ここにいる。
そこは彼の場所だった。
彼は必ずそこにいて。
鍛錬をしたり、昼寝をしたり。ぼんやりと海を眺めていた。
そして自分は、いつもその背中を見つめていた。
皆が、おかえりと言った。
ゾロは困ったように柔らかく笑っただけだ。
どこか不安そうに、どこか安心したように。
その様子に誰もが、覚えているのか?と問えなかった。
サンジはポケットからタバコを取り出す。
火を点けることなく銜え、歩き出した。彼の元へ。
潮風にシャツの裾をはためかせ、真っ直ぐ海を眺めるその背中へ。
「ゾロ。」
気付いているはずなのに振り向かない背中は、呼びかけても変わらない。
溜息を一つ、サンジは何も言わずに隣へ並んだ。
ゾロは静かな瞳で真っ直ぐに、ひたすら真っ直ぐに海を見ている。
この瞳を知っている。
サンジは火の点いていないタバコを口から離し、小さく笑った。
「ゾロ。眠いの?」
聞くと、ゾロは初めてサンジに視線を向けた。
そして、頷くように、そっと瞳を閉じる。
まるで甘えているようだ。
まだ火を点けていなかったタバコを、サンジはポケットへ戻し、そっとゾロを包み込む。
ぎゅっと抱きしめることはしない。
毛布のように、優しく。守るように。
包まれているゾロは、抱き返すことはしないが静かに身体を近付けている。
「あー、ゾロだ。」
頬を摺り寄せ、サンジは微笑んだ。
ゾロは空気とサンジの匂いを、胸いっぱいに吸い込んでいた。
鼻を擽るようなタバコの香りで、肺が満たされるように。
「なぁ、ゾロ。」
答えはない。ゾロは、再会してから一言も口を開いていない。
ルフィは話しをしたと言っていたから、言葉を忘れてしまったと言うわけではないだろうとチョッパーは言っていた。
「ゾロ、答えて。」
答えて。
少し、ほんの少しだけ。回している腕に力が篭る。
ゾロは少し名残惜しそうに、ゆっくりとサンジの胸を押しのけた。
そして、真っ直ぐにサンジを見つめる。海を見つめていた、あの瞳で。
サンジは声を出さずに、ゾロの名前をもう一度呼んだ。
答えるように、ゾロの口が静かに開く。
「・・・お前。」
それは久しぶりに聞くゾロの声。
「お前は、」
心地の良い低い声。胸にじわりと染み込むような。
「お前は、誰だ。」
優しい、ゾロの声。
サンジは眼を閉じた。
浮かび上がり始めていた涙に蓋をするように。
不安なんて、始めからあったろ?
不安はないなんて、誰が言ったんだ?
分かってる。
こうなるんじゃないだろうかと、予想してなかったわけないじゃない。
俺だって馬鹿じゃない。
なのに、何でだ?何でこんなに。何でこんな。
何で?何で、何で・・・。
あーあ。馬鹿だよなぁ、本当に。
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