ぬるい風の午後



テレビ画面は単純なカーレースゲーム。それでも初めて(今時!)ゲームをやるゾロには少々、操作が難しいようで、画面の中のスポーツカーは、先刻から悪路を走ったり、コースを逆走したりと、大騒ぎだ。

「ゾロ、おまえ下手だな〜」
「………」
「あ〜あ」
「うるせぇよ!」

サンジが態とからかうものだから、負けず嫌いのゾロは必死でコントローラを握っている。まだまだ対戦モードでやれるような状態ではない。ゾロ曰く、今は「自主練中!」なのだそうだ。
だが運動神経と反比例してしまうものなのかと思ってしまう程に、その成果は余り捗々しくない。
音ばかりは派手なエンジンがその性能を十分に発揮出来るのは一体いつになるものやら。

平日の住宅街は殊更に静かだ。道を行き過ぎる車の排気音に混じって時折、廃品回収車のひび割れたアナウンスが風に乗って聞こえてくる。長閑すぎる程に長閑な昼下がり。
これで明日、試験さえなければと思うのだが、試験がなければゾロはこんなところに居る筈もないだろうと思い直す。
毎日部活に明け暮れているゾロも、流石に試験期間だけは帰宅部の一員となる。だから中間試験の中日にこうして家に誘ってみたのだけれど、まさか本当に来てくれるとは思わなかった。口実は、一緒に試験勉強しようぜ、とかなんとか。けれどそんなの高校生の男子二人が寄って、本当にやるわけがない。案の定、帰宅早々、サンジは自室のテレビのスイッチをいれ、ゲームのコントローラーを取り出したのだった。
初めは「やったことない」と乗り気でなかったゾロも、ものの5分もしないうちにゲームに夢中になった。RPGとか小難しいものは好まぬようだがやはりそこはオトコノコだ。単純な競争モノには面白いくらいムキになった。

コントローラーを握る後ろ姿が、実際の車の動きに合わせて、右に左に揺れる。
まるで本当にハンドルを操作しているようだ。
きっと本人は自分の体が動いていることなんて全く気付いていないのだろう。
車の動きに合わせてぴょこぴょこと揺れる緑頭は酷く、可愛らしい。
…可愛らしい?
まったく男相手に何を、と、思わないでもないけれど、本当に可愛いのだから仕方がない。
出会ったばかりの頃は、背も今よりずっと小さくて、まるで弟みたいな存在だった。だから可愛いと感じてしまうのだと、そう思っていたけれど。

最近、めきめきと身長が伸びているゾロとサンジの視線はもう、そう変わらない。
顎や頬の線も随分とシャープになって、どう見たって可愛い顔なんかじゃない。

言い訳はもう、通じない。何よりもうこんな自問自答にも飽きてしまった。
認めてしまえばその感情は酷く収まりよく胸に落ちてしまったから。
だからといって別にゾロのことをどうこうしようと思っている訳ではない。
まったく驚く程の純愛っぷりだ。

……ただ、この先もそうだと言い切れるだけの自信はないのだけれど。

思いを巡らせていれば、ふいに振り向いたゾロと視線が合った。
綺麗な目をしているな、と、思う。
「ゾロ」
「…何だよ?」
「コントローラーごと自分が動いたって、車はカーブを曲がんねぇぜ?」
おまえ、スーパーマリオとかでジャンプする度に自分もピョコって跳ねるタイプだな、とサンジが真似してみせると、ゾロの眉間に大きな皺が寄る。そんな顔すら、もう。
「……スーパーマリオってなんだよ?」
不機嫌そうな、けれどどこか拗ねたような表情のゾロに、サンジは今度こそ大笑いしたのだった。

生まれたばかりのこの気持ちは、きっと近い未来に少しずつ形を変えてゆくのだろう。
それでも、こんな風に馬鹿みたいに、愚にもつかないことで笑い合ったりした今日のことは忘れずにいたい。

そう、思うのだ。





短っ!!お久し振りの高校生でした。書きたかったのは、コントローラーと一緒に体が動いてしまうロロノアさん。ちなみに私も画面上のキャラクターと一緒に体が動くタイプです。←というよりはゲーム下手…。
ていうか愚にもつかないのはこの話なんじゃないか……な。
と、まあこんな拙いものではありますが、このお話は帽子屋さんに捧げます。貰ってくだ猿?

ミナト タツキ
20050511




日記で高校生いかが?と書かれているのを見て、即行動していた自分が素晴らしいと思います。 ああ、あの時の迷いのない私よ、ありがとう。(笑)
何より、こんな野郎の望みを叶えて下さったミナトさん、ありがとうございます!!
なんつー可愛いんだゾロ〜〜!!ああ、叫びが止まらないです☆

帽子屋より