ゾロは自分が役立たずだと知っている。














花みる幻














ゾロの主人であるサンジは、自他共に認める人間嫌いだ。
それを考慮してかサンジは作家という職業を選び、人里はなれた山奥に屋敷を構えている。
たまに訪れる編集者を除けば、屋敷には滅多に人間が訪れる事はない。
主人であるサンジの周りには、ゾロを含めて6体の機械人形がいる。
彼らは主人であるサンジのために存在しているのであって、その全てがサンジを中心にプログラムされている。












早朝。深夜時間、仕事に向かう主人が布団に包まる頃、機械人形たちは仕事を始める。
主人が眠っている間に雑事を片付け、主人が起きている間は主人の望むものを与え続けた。
ゾロは布団に潜った主人が規則正しい眠りの呼吸に変わったのを確認し、そっと部屋を後にした。
「サンジ君は?」
オレンジ色の髪をした女の機械人形。名前はナミと言った。
サンジが作家という仕事に就いた丁度その頃、身の回りの世話をとサンジが買ってきた機械人形だった。
主に家事を担当し、他の機械人形たちをまとめる役目を持っている。
「寝た。」
「そう。じゃぁ仕事を始めるわ。」
そう言って、何の迷いもなく掃除器具の場所へ向かう。
ナミはこの屋敷に、主人に必要な機械人形だ。
「ナミ。」
「何?」
「何か手伝うことはあるか?」
「ないわ。ゾロが手伝うより、一人でする方が効率がいいの。」
「そうか、残念だ。」
ナミはモップとバケツを持って歩いていく。
少しの間、後ろを追っていたゾロは足を止め、掃除の邪魔にならない様にと外へ出た。












空を見上げた。
晴れているが、風が強い。少し離れた空に雨雲が見えた。
「今夜は雨が降るな。」
ゾロが声に振り向くと、麦藁帽子を被った男の機械人形が立っていた。名前はルフィと言う。
サンジが作家として成功し始めた頃、人間嫌いのサンジが尊敬する数少ない作家から送られた機械人形だ。
これと言った仕事はしないが、屋敷周辺を散策し、滅多に外に出ないサンジに冒険と称して話をする。
サンジはいつも、それを楽しみにしていた。
「今日は屋敷から離れない様にしなきゃな。」
「ああ、雨は俺たちの天敵だ。」
そんなことを言って、泥だらけで帰ってきたこともある。主人への楽しい冒険を連れて。
ルフィはこの屋敷に、主人に必要な機械人形だ。
「ルフィ、付いて行ってもいいか?」
「ダメだ。」
「何でだ?」
「今日は地下のトンネルに潜るんだ。ゾロは大きくて入れねぇ。」
「そうか、残念だ。」
また今度なと、ルフィは去って行く。
途方に暮れたゾロは足元に咲いていたタンポポを摘んで、屋敷の中へと戻っていった。












ゾロは摘んだタンポポを見ていた。
黄色い羽の様な花びらは、主人の髪の色より濃い色だなと思った。
「タンポポじゃねぇか。春だなぁ。」
そう言って階段から降りてきたのは、異様に鼻の長い男の機械人形だった。名前はウソップと言う。
サンジが始めて給与を貰った時、少し変わっていておもしろそうだと言って買ってきた機械人形だ。
サンジの思うままの家具や、サンジを喜ばせる発明をする。
口も達者で、面白おかしく作られたその話は、サンジの楽しみの一つだった。
「早く花瓶に入れてやらねぇと、枯れちまうぜ。」
「ああ、そうだな。」
そして、花瓶ならキッチンの右上の棚にあるだろうと教えてくれる。
ウソップはこの屋敷に、主人に必要な機械人形だ。
「ウソップ、今日は雨が降るぞ。」
「そうだな、外は避けて作業をするよ。」
「仕事があるのか?空いているなら話を聞きたかったんだが。」
「悪いが忙しくてね。外に出れないとなると困ったもんだ。」
「そうか、残念だ。」
それじゃぁ内装工事から始めようと、ウソップは去って行く。
その背が見えなくなるまで待ち、ゾロは萎れそうなタンポポを持って主人の部屋へ向かった。












主人の部屋の扉を開くと、1時間程前に布団に入った主人は目を覚まし、ベッドに座っていた。
「おはよう、ゾロ。」
「おはよう、サンジ。」
挨拶を交わし、サンジはゾロに手招きをする。
ゾロはそれに従いサンジの傍まで歩いて行くと、ベッドの前に膝をついた。
丁度サンジの胸の高さになったゾロの頭を、サンジはぎゅっと抱きしめる。
ぐりぐりと頭を撫で回し、額に唇をつけた。
ゾロの主人は目覚めると必ずこうする。
サンジが毎日決まったように繰り返すこの行為に、何があるのかゾロは知らなし、サンジもゾロに教えなかった。
ただ、ゾロはサンジが望むことならと身を任せるだけだ。
ゾロはそれが全てだった。
「何?それ。タンポポ?」
サンジが、ゾロの手を優しく撫でる。
「春だ。」
「ああ、外は春なんだな。」
サンジは、窓から見える外の景色を眩しそうに眺めた。
「サンジにこれをやろう。」
「野郎から野郎に花かよ。」
そう言って笑いながらサンジはタンポポを受け取った。
「今日は雨が降る。」
「そうなのか?晴れてるのになぁ。」
「西の空に雨雲を確認した。風速と風向きを計算して正午には降り始める。」
「そうか、まぁ雨は嫌いじゃねぇよ。」
今日一日のことで自分の集めたデータを全て伝える。
機械人形なら、誰でも分かる事だ。ありきたりのデータ。
「今日は外に出ないようにしなきゃな。皆に言っといてくれ。」
「分かった。伝えておこう。」
「ああ、頼むよ。」
伝えるも何も、機械人形は水が天敵なのであって、雨を避けることなど機械人形なら誰でも知っている。
わざわざ伝える必要などないのだ。
こんな仕事しか出来ない。
主人は役立たずの自分に気を使って、こうして些細な仕事を預けてくれるのだろう。
ゾロは自分が役立たずだと知っている。
大切な主人に仕えることが出来る喜びと、何も出来ない己との間で、いつだってゾロは不安定だった。












それは食事の時間に起こった。
料理をすることが趣味である主人は、今日も自分の昼食のためにキッチンに立っていた。
ゾロはテーブルに向かう椅子に座って、その背中を見ている。
「サンジ、何か手伝おう。」
忙しそうに動く背中にゾロは声を掛けるが、サンジは笑って返事を返す。
「お前が手伝ったら、酷い目に合うからいいよ。座ってて。」
以前、手伝うと言ったゾロは、運んでくれと頼まれた食器を割ってしまった。
それはサンジのお気に入りの食器で、サンジはとても哀しんだ。
ゾロは過去のデータから、その時のサンジの哀しそうな顔を思い出す。
データが重いためか、ゾロのモニターの端に赤いエラーランプが一瞬点滅した。
「申し訳ない。」
ゾロが謝ると、サンジはまた笑って答える。
「こないだの皿のことか?気にするなよ。形あるものいつかは壊れる、だ。」
背中が振り向き、サンジは両手に料理を乗せてテーブルに飾り始める。
料理は二人分。サンジとゾロのものだ。
しかし、ゾロは食べる事は出来ない。機械人形だからだ。
「サンジ。」
「分かってるって、俺が勝手に作ってるだけだ。食べなくていいよ。」
「俺は食べたくないのではなく、食べられない。」
分かってると、サンジは眉を寄せて笑う。
「そうだよな、こんなもん体ん中に入れたら、ぶっ壊れちまうもんな。」
その通りだと、ゾロは答えることができなかった。
答えようとすると、エラーランプが点滅したのだ。
主人を傷つけるだろうことは、例え言葉でも使うことは出来ない。
「サンジ、俺は食べたくないわけじゃない。」
「そうだ。お前は食べることが出来ないだけだ、人間じゃないから。」
人間じゃないから。
とても哀しそうにサンジは言った。エラーランプが点滅する。
自分と言う機械人形は役に立たない所か、主人の願いすら叶えられないのか。
「食べる。」
言うと点滅が消えた。サンジが驚いた顔をしている。
サンジの作ったスープを、スプーンで掬う。
サンジの真似をして、手前から外側へ向かってスープを掬い、口へと運ぶ。
「ばかっ!やめろ、壊れちまうだろっ!!」
スープは抵抗なくゾロの体の中に流れ落ちた。
味を感じることは出来ない。所詮機械人形だ。人間じゃない。
それでも。
「うん。美味い。」
ゾロはサンジの真似をする。精一杯サンジに答えるために。
「ゾロ。」
「美味そうだなとは思っていたけど、やっぱり美味いな。」
サンジは天才だ。
そう言ってサンジを見ると、驚いた顔のまま止まってしまっている。
ザザザザと、ゾロの目に映ったサンジにノイズが走った。
口に掘り込んだ人間の食事が、体の中のコンピュータをどうにかしてしまったのかもしれない。
「サンジは天才だ。」
もう一度言う。サンジの顔が見る見る歪んでいくのが分かった。
違うと思った。ゾロが望むのはサンジのそんな表情ではない。
やはり自分は役立たずだ。
激しくなるノイズと、再び鳴り響き始めたエラー音がゾロを支配していく。
役立たずは、何をしようとも役立たずなのだ。
単純な回路の機械人形には人間の使う複雑な嘘は難しい。
主人のためなどと、おこがましい。
がががという鈍い音とともに、ゾロの機能は停止した。












ゾロの機能を回復させるのに、あまり時間は経たなかった。
応急処置だと、必要最低限の機能のみを回復させたのだ。
「人間の食べ物を体の中に入れるなんて、バカなことしないでよ。」
僕らは精密機械なんだよと、工具を片付けている小さな機械人形はチョッパーだ。
彼は人とは違う特殊な形をしていて、本来はペットとして人々に愛用される。
サンジが機械人形のメンテナンスのためにと、人間の医学にも精通しているプログラムを持つ彼を買ったのは、つい最近のことだ。
チョッパーは自分を含めた屋敷にいる6体の機械人形のメンテナンスを行い、サンジの健康管理まで行う。
「俺はどのくらい機能停止していた?」
「3分27秒。サンジが急いで俺を呼んでくれたからね。」
サンジを不安にさせちゃダメだよと、手際よく片付けられた工具箱を閉じる。
チョッパーはこの屋敷に、主人に必要な機械人形だ。
「ああ、理解している。」
「本当かなぁ。調子が悪いならすぐに言ってね。」
「直ってないのか?」
「場合によっては解体。僕らは人間と違って異物を排出できる機能は持ってないんだ。」
「そうか、残念だ。」
暫く動かないでと、チョッパーは部屋を後にする。
小さな背中が大きく見えた。ゾロはそれが羨ましいと思った。












ビリビリと視界を遮るノイズが止まない。
ゾロは動くなと言われた部屋を後にし、主人の資料室へ向かった。
「どうぞ、私しかいないわ。」
少し厚めの扉を開くと、黒い髪が肩まで真っ直ぐに伸びた女の機械人形が座っていた。名前はロビンと言う。
ロビンは亡くなったサンジの祖父から引き継がれた機械人形で、一番古く、一番物知りだった。
そのため、ロビンは作家であるサンジとよく難しい話をしている。
何らかの専門的な情報をサンジが欲した時、それをすぐさま差し出すことが出来るのがロビンだった。
「あら、機能停止状態だと聞いたのだけれども。」
「さっき回復した。」
まだ少し調子が悪そうねと、読み途中だろう手元の本をそっと閉じる。
ロビンはこの屋敷に、主人に必要な機械人形だ。
「お前に聞きたい事があるんだ。」
「彼を捜しているのかしら?」
「いや、違う。」
「あなたが彼以外のことを聞くなんて、珍しいわね。」
「そうか。」
「そうよ。」
ロビンはゾロの次にサンジの元へ来た機械人形だ。
機械人形の中で一番古い付き合いである。
そのためか、他の機械人形とは違う感覚をゾロはロビンに感じていた。
「なぁ。」
「なぁに?」
まるで子どもを相手にしている様なロビン。
ゾロはくっと言葉を飲み込んで、改めて吐き出した。
「機械人形は人間にはなれないのか?」
ばかばかしい。そんな答えは決まっている。
しかし、ロビンはすぐには答えなかった。真っ直ぐに、その目でゾロを見つめていた。
「人間と俺たちの違いって何だ?機械が入ってることか?飯が食えないことか?」
姿形はこんなに一緒なのに。
「私は、」
ロビンはゆっくりと口を開いた。ゾロに言い聞かせるように、そっと答えた。
「私は、あなたがなぜその質問をするのか理解できないけれども、質問に答えることはできるわ。」
正しい答えを。間違えなど微塵もない回答を。
「私たち機械人形は人間にはなれないわ。」
機械人形は、所詮機械人形。魂を持たない、命のない鉄の塊。
水に触れれば壊れてしまう。プログラムどおりにしか動けない。
主人のために尽くすだけ。
人間とは程遠い。人間なんて、夢のまた夢。
「そうか、残念だ。」

本当に。本当に、残念だ。












ゾロが主人であるサンジと出逢ったのは、サンジの元にまだ機械人形と呼べる者たちが一体もいないころだ。
ゾロはサンジの初めての機械人形だった。
サンジの住む屋敷の離れにある、ゴミ捨て場にゾロは捨てられていた。
捨てられ、真っ白だったゾロのハードディスクを組み立て直し、再起動させたのは小学生のサンジだ。
サンジは始めての機械人形をとても大切に大切にした。
ゾロもそれが嬉しくてサンジを大切に大切に思った。
しかし、ゾロの中にあるのは、幼い子どもが辛うじて組み立てたお粗末なプログラム。
ゾロは何も出来ないに等しかった。
学習能力も低く、再起動後は言葉を話すことも難しい状態だった。
そんなゾロをサンジはとても大切にしてくれた。
ゾロはきっとサンジの役に立とうと、懸命に学習を重ねた。
しかし、サンジが大人になり、サンジの周りにはそれぞれの仕事をこなす機械人形がいる。
サンジはゾロに何も求めなかった。命令をすることがなかった。
ゾロには役割がない。
サンジのために存在するという働きができない。
ゾロは自分が役立たずだと知っている。
絶望するほどに、それを知っている。
ノイズは止まない。
どうしても役に立たないのならば、せめてサンジと同じになれないだろうかと思った。
人間になって、同じように眠り、同じように飯を食う。時に喧嘩し、仲直りをする。
人間は複雑だ。
機械人形のゾロでは、そこまですることができない。
エラーランプの点滅が今まで以上に激しい。止まらない。
このまま壊れてしまうのだろうか。
「ここにいちゃいけない。」
ゾロは体中を軋ませながら屋敷を後にする。
壊れてしまうのなら、せめてサンジのいない場所で。
お粗末なプログラムのゾロは、機能停止やフリーズを繰り返していて、その度にサンジが修理していた。
これ以上、サンジに面倒を掛けてはならない。
エラーランプは止まることなく激しさを増す。
それでも、ゾロは足を引きずりながら進んだ。
外は正午から降る雨が止んでいない。恐らく、一晩中降るだろう。
今日は皆外に出ないようにしなければならないと、サンジが言っていた。
命令無視は機械人形のご法度だ。
本来、主人の言うことに逆らうことを知らないはずの機械人形である自分。
役立たずな上に、欠陥品だ。
泥だらけの足が、がしゃんと音を立てて崩れた。見ればバチバチと火花が散っている。
「壊れた。」
サンジに拾われたゴミ捨て場までまだ距離がある。
動く腕で体を引きずっていく。もう足は使い物にならない。
「ガラクタだ。」
ズルズルと体を泥まみれにして進む。
役立たずは、足までも役立たずだ。
きゅーんと、どこかで音がした。視界が暗くなっていく。
「役立たずめ。」
腕がぎぎぎと鳴る。間接部分に水が入ったのだろう。
次は命を持っていたい。次は人間として作ってくれないだろうか。
ぷつんと。その機能が停止する瞬間まで、ゾロはひたすら夢を見ていた。












真っ白な天井を視界に、ゾロは再起動した。
とても動きが鈍い。体を起こすことも出来ないでいた。
「起動しやがったか、このクソまりも。」
「サンジ。」
「少し音声が乱れてるな。」
そう言って、ゾロの枕元でちょこちょこと作業をしていたチョッパーに指示を出す。
どうやらここはサンジの部屋のようだ。
チョッパーは、了解したと言って四角い箱を弄くっている。ゾロの知らない機械だった。
「スープ飲みやがったと思ったら、今度はどしゃぶりの中、家出だ。」
何だ、お前は。自殺志願者か。
「本当に、時々お前は人間臭ぇよ。」
「サンジ。俺は機械人形だ。機械人形は人間にはなれない。」
そんなこと知ってるよと、サンジは泣きそうな顔でゾロの顔を撫でている。
「チョッパーが動くなって言ってたろ?何で動いた。」
「俺は役に立たない機械人形を廃棄しに行っただけだ。」
「あほか。」
サンジはゾロの首元に顔を埋めた。
あほか、と。もう一度言った。
「大丈夫だ。どうすれば機能停止するかくらい知ってる。」
お前の手を煩わせるまでもねぇよ。
ゾロが言うと、サンジはゾロの首元で泣き出してしまった。
苦しそうに息を吸い込んでは吐き、必死に呼吸を整えようとしている。
「なぁ、ゾロ。」
頼むから。
「頼むから、そんなこと言わねぇでくれよ。」
サンジはゾロから離れない。じっと、顔を埋めたまま、ゾロの緑の髪を撫で続けた。
ゾロはまたサンジを哀しませていると思った。
頭に頬を摺り寄せ、どうすればサンジが泣き止むのだろうかと必死に考えたが、どうしてもゾロには分からない。
途方に暮れたゾロは、ふと窓際に目を向けた。
水の入ったグラスに、タンポポが挿してある。
ゾロがサンジに渡したタンポポだ。
「飾ってある。」
ゾロの声に、涙でぐちゃぐちゃのサンジは顔を上げ、ゾロの視線を追う。
「ああ、お前に貰ったもんだ。」
「そうだ、俺がサンジにやった。」
ゾロはじっと、窓辺のタンポポから目を放さない。
「サンジ、花は好きか?」
「ああ。」
「じゃぁ、俺はこれから毎朝サンジに花を摘もう。」
「ああ。」
そう言ってゾロは、真っ直ぐにサンジを見つめ直した。
「その前に、ちゃんと修理しろ。」
「当たり前だ、仕事ができなくなるだろ。」
今度こそ動かないでねと、チョッパーが釘を刺す。
ゾロの修理に必要な部品は、ロビンが注文していると言った。
ナミは新しい寝巻きを運んでくれる。
ルフィは面白そうな花が咲いていると言う場所を教えてくれた。
ウソップはチョッパーとともにゾロの修理に取り掛かる。
サンジは、
「あー、俺これが好き。この黄緑のやつ。」
「分かった。」
「おっ、これも好きだな。このいっぱいくっ付いてるの。」
「これは見たことがある。」
「じゃぁ、次これな。」
資料室に並べられている花の図鑑を、ゾロと二人で眺めている。
「なぁ、修理終ったら、一緒に採りに行こうぜ。」
「ダメだ。俺の仕事だ。これが無くなったら、俺はまた役立たずになる。」
役立たずだなんて言うなよ。
サンジはむっとした顔を向け、ゾロの頭を荒っぽく撫で回す。
そして、今日はお終いと、ゾロから図鑑を取り上げると、机の上に放り投げた。
「俺は寝る。お前も寝ろ。」
「サンジ、機械人形である俺対して寝ると言う行為を、」
「あ〜はいはいはい。」
扉の外へ逃げだした。
「おやすみ。」
「おやすみ、サンジ。」
ぱたんと扉は一度閉じられるが、間髪入れずにすぐに開く。
「言っとくけど、お前は断じて役立たずじゃねぇかんな。」
もし、ほんの少しでも役立たずだなんて思ったなら。
「真っ先に俺が解体してやる。」
眉間に皺を寄せ、口がへの字なその顔は、いつもゾロを修理する時のサンジの表情だ。
中途半端に開いた扉から、顔だけ部屋を覗かせるサンジ。
びしりと、指でゾロを指す。
「二度と言うな。クソまりも。」
それを捨て台詞に、サンジは扉を閉じてしまった。
「俺、役立たずじゃなかったのか。」
ああそうかと、ゾロはぐるぐる考えていた自分をバカバカしく思った。
機械人形は単純だ。
人間のように複雑に出来ていはいない。
だからサンジがどんな思いで、ゾロにそう言ったのかをゾロはこの先も理解出来ない。
それはゾロがどんなにサンジのことを思っても変わらない。
何も生まれない。何も響かない。
機械人形は主人のために働くだけだ。
それでも。
単純を愛した人間がいた。
複雑を夢見た機械がいた。
グラスに挿されたタンポポはその体が朽ちるまで、そんな彼らを見つめている。























花みる幻end