大好きな人の一番でありたい。
大好きな人へなら、一番にしたい。
大好きな人から、一番に。
あなたの、一番を。






夢を続ける町








「遠距離恋愛って、やっぱり辛い?」
カウンターに身を乗り出し、ナミはサンジの作業する手を見ていた。
肉付きがよいわけではなく、かといって皮と骨だけでもない。しなやかに伸びる指。
それが止まる。
まるで機械が作業しているように規則正しく動いていた指が急に止まり、ナミはそれに驚いた。
サンジの顔を見上げるとサンジは半笑いのまま、止まっている。
「え?」
笑っているのに笑えていない顔。誤魔化したいのに誤魔化しきれていない顔。
背中には嫌な汗が流れているだろうか。
「バレてないと思った?結構、高校のころから噂とかで皆騒いでたのに。」
ゾロはともかく、サンジ君も知らなかったの?噂?
「噂?」
「どこぞのレストランのホモ義兄弟。」
聞き終わる前に、サンジは叫びだし作業中の野菜を放り投げた。情けない。
我に返って、拾い集める姿が一層情けなさを醸し出す。
ナミは笑ってしまう。呆れてと言うより、微笑ましく思ったのかもしれない。
今時、中学生でもこんな反応はしないだろう。
だから、いつだって優しい気持ちでここへ来ることが出来る。
キッチンの奥の奥。一番奥。三畳程度の部屋がある。
そのスタッフルームとして作られた部屋は、自宅へ滅多に戻らないサンジの砦だ。
砦には、ベッド代わりのソファ。洗濯済みの服。小さなテレビ。タバコが溢れた灰皿と、机。
レシピを書く場所として最大に生かされる机の上には、レシピの山と新しい用紙の束。
そして、写真立てが一つ。
サンジを捜していて、うっかり見つけた。
全部が放り出されて汚れていて。そんな、汚れることを何とも思ってない様な人の、たった一つの宝物。
毎日丁寧に磨かれているのだろう小さな四角い枠の中で、楽しそうに笑う二人。
ナミはそれを見て何故か泣き出しそうだと思った。同時に、胸に小さな灯。
「仲良すぎだよ。あれじゃバレバレ。」
うろたえているサンジを見て、意地悪げに笑ってやる。
「絶対バレないとか思って、学校でもイチャこいてたんでしょ?」
確か、クラスも一緒で、席も・・・後ろ前。
「授業中に教科書とかに隠れながらキスとかしてたりして!」
ま、それはないか。ベタベタだよねぇと、サンジを見れば、真っ赤な顔をしている。
・・・まさか。
「やったの?」
再度叫び出すサンジ。
そんなサンジに、ナミは噴出し、そのまま大笑いしてやった。
さて、と。
ナミは腰掛けていたカウンターの椅子から降りる。
「あれ?ナミさん。行っちゃうの?」
頭を抱えたまま振り向いたサンジは涙目で、ナミをまた噴出させる。
「そ。お仕事でっす。」
今日はノジコの分の配達もあるのと、背中を向けてしまう。
ノジコとはナミの姉で、ココヤシ青果は二人の母から受け継いだ会社だ。
「ホントはね。いつもの配達と一緒に渡すものがあったんだけど・・・。」
「え!何?愛の告白?!ナミさん。やっぱ俺のこと好きなの!?」
ばーか。ナミは溜息を一つ。
「近くにいるからって、私なんかが先を越すのは悪いなぁと思って。」
「へ?」
何のことだと言わんばかりの間抜け面のサンジに、呆れてしまう。
「はいはい。きっとすぐ思い出すわよ。ホモ義兄弟1号。」
「ちょっ!ナミさん!?1号って何?!ホモって、ちょっと??」
チリンチリンと可愛い音を鳴らして閉じた扉の向こうの声など、もう耳に届かない。
学生の頃から、ずっと寄り添っていた二人を頭に描いて、可愛いだなんて思う。
まるで母親のように、優しい気持ちになるのだ。
ばーか。ナミはもう一度呟いた。
そんな自分に、笑ってしまう。






ナミの乗った軽トラックのエンジン音が遠ざかって行く。
サンジはそれを窓から確認して、手元に視線を戻した。
止まっていた作業を再開しなければならない。開店時間に間に合わないからだ。
今日は予約が入っていた。
サンジは放ってしまっていた野菜を手に、作業を再開する。
ぺーッぺーッ。
外から、間抜けなクラクションが響いた。ガシャンとバイクを止める音がする。
少し間。扉が再び、慣れた可愛らしい音を連れて開く。郵便屋のウソップだった。
よぉと、軽く挨拶をしてくる。
ヘルメットを外さないところを見ると、長居はするつもりはないらしい。
「さっきナミとすれ違ったけど。来てたのか?」
「ああ。ナミさんは相変わらず、お綺麗だったぜ〜。」
「誰も、んなこと聞いてねぇよ。」
冷たいウソップの視線を感じるが、サンジは無視する。
ウソップもサンジが、そういう人間だと知っていたので、あえてそれ以上言わない。
「で。何だ?また鼻が伸びたのか?今回は何ミリだ?いや、センチか?」
「おーおー。ほんっとにお前はムカつく野郎だ。」
ぶつくさ言いながら、肩から掛けていた黒い鞄を探る。
中から細い棒状の、先の丸い包みを出した。
「ほれ。」
無愛想な渡し方に、今度局へ苦情を言いに行ってやると思いながらサンジは受け取った。
「何これ?」
「メッセージ読めよ。」
包みにはカードが付いていて、折り畳まれたそれをサンジは躊躇なく開く。そこには。

Happy Birthday , Sanji.

それだけのメッセージ。
でも、サンジには誰からだか分かる。
ウソップから差出人を確認しなくとも、その字は小さい頃からの見慣れた字だった。
「ゾロ。」
「お。流石だなぁ。何だ?愛のパワーか?」
「・・・ああ。偉大だろ。」
「けっ。からかいがいの無いヤツ。少しは羞恥心ってもんを持て。」
ホモ1号め・・・と、ウソップは小さな声で呟いたが、聞こえない振りをした。
サンジは包みとメッセージカードから目を離さないままだ。
思いも寄らないプレゼントを貰った子どもは、食い入る様に見つめている。
「一番は譲ったからもういいよな。誕生日、おめでとさん。」
きっと、ナミの渡したかったものというのも、その言葉だったのだろう。
サンジ自身、己の誕生日など忘れてしまっていた。
ただ忙しくて。今日だって、予約客が入っていて。
でも、そんな中でもこうして祝ってもらえて。
「あり、がと・・・。」
「がはは。照れるな照れるな!お前が照れたって、可愛くも何ともねぇ。」
怒りを覚えなくもないが、今は黙っておこう・・・。
サンジは包みを撫でる。カサリと紙の擦れる音がした。
何日か前、ゾロがこれに触れていたのだと思うと、何だか擽ったくなって笑ってしまう。
形からしてこれは。
「それってオタマか?」
「・・・お前、分かってても開けるまで言うなよ、それは。」
「あ、悪ぃ。」
とりあえず、さっきのホモ発言の分と合わせて。
後から一発殴ってやる。






ウソップは配達に戻り、店にはサンジ一人だ。
閉店時間にまた来ると言っていた。
今度は、ウソップの彼女であるカヤも連れて、ケーキを届けると。
ナミも、あの様子ではまた来るだろう。言葉だけでも届けるために。
サンジは包みを、愛しげに撫でる。
開いてしまうのが勿体無いと言わんばかりに、付いているカードを何度も開いたり畳んだりして遊んだ。
作業を残して、キッチンの奥の部屋へ行く。サンジの小さな砦だ。
忙しさを言い訳に掃除のされていない部屋。
机の上の写真立ての中、微笑む人。ずっと一緒だと、夢見て止まない人。
誕生日にオタマだなんて、何て捻りのない、色気のないものをと思う反面。
不器用ながらに選んでいる彼を思い浮かべて、愛しさを感じないわけがなかった。
彼は今、大学で経営について学んでいるという。
彼自身から聞いたのではなく、ナミから聞いた。
経営について学び、卒業後はこちらへ戻ってくると。サンジと共に、店を守ると。
人伝に聞いたことに、ショックがないと言えば嘘になる。
でも、もしかすると驚かそうとしているのかもしれない。
だって、彼が戻ってくることを一番望んでいるのは自分なのだから。
そしてそれは、二人の夢なのだから。
静かな部屋に、ガサガサと紙の擦れる音が響く。包みを優しく開いた。
「あ。」
開かれた包みの中は。確かにオタマだ。でも、これは。
小さな穴の沢山空いたオタマ。それはスキンマーと呼ばれる調理具で。
「あーあ。やられた。まいった。」
騙された。
中途半端にぶら下がったリボンに、オタマだと思っただろうバーカと、笑われている。
悔しいと思うのに、どうしても笑顔が消えなかった。
ゾロは今、何をしているんだろう。

机の上、写真立ての中で、幼さを残し悪戯好きそうな二人は笑っている。
喜びを弾けんばかりに輝かせ、今を夢見て笑っている。






ここは夢の町。
二人の夢が叶う町。二人の夢を叶える町。
幼い二人を見守って、今でもずっと待っている。
夢が叶う日を待っている。
ずっとずっと、夢を見続けている。
そんな優しい町。













「二人の夏/夢を続ける町」end



サンジ、誕生日おめでとー☆夏のお二人さんです。はい。
夏のお話を読んでいないと、分からないことがあるかもなぁと思いつつ・・・だはは。
こいつら、面白がって一号二号と呼ばれとったんかい。 女の子は、サンジとゾロが一緒にいるところを見てキャーとか喜んでたんだと思ってます。(笑)
ココヤシ青果のナミさんと、新たに現れました郵便屋さんウソップ君とその彼女・・・は、名前だけか。(笑)
ビックリなことにゾロが出てこない!!わ!!ビックリですね。(自分一人で驚くなよ)
中身とタイトルが・・・タイトルが素晴らしすぎるよ・・・自分でエエのん持ってきたなぁと思う反面、中身が・・・中身が〜ららら〜♪(歌いだすな)
楽しかったです。うん、めっちゃ楽しかった。
企画万歳!!お手を繋いで下さったミナトさん、本当にありがとうです!!
そしてそして!読んで下さった方に、少しでも楽しんで頂けたなら絶叫です。(煩いからやめなさい)
ありがとうございました!!!