小さな村の中心には、不似合いな教会が建っている。
何でも昔、その村を作った金持ちの男が神様を愛していて、その神様のために建てたのだと聞く。
本当かどうかは知らない。
ずっとずっと昔の話だからだ。みんな忘れてしまった。
村には元より信仰がなかったため、それらしい行事もなく、教会というのも形だけだった。
教会にはシスターが一人と、何らかの理由で親元を離れて暮らす子ども達がいる。
子ども達には、冬になると家に帰る子もいるが、帰る家のない子もいた。
その子達は、寒い冬も教会でシスターと過ごす。
だから淋しくなんてなかった。
















『今年は何を貰えるかなぁ?』
『そうだよねぇ。』
『それって、サンタさんに?』
『うん。あ・・・、サンジ君。』
『何?俺も、サンタさんに何を貰おうかなぁ。』
『え?サンジ君にもサンタさんいるの?』
『いるよ?去年も貰ったよ。ゾロとお揃いのマフラーだ。色違いなんだよ。』
『そっか、シスターがくれたんだね。』
『違うよ。サンタさんだよ。』
『嘘付かなくてもいいよ、私たちには。もう知ってるんだから、サンタクロースの正体は・・・。』
















冬の住人、聖夜のヒト
















教会の外は真っ白な世界。
曇っていてキラキラと光ることはなく、ただ真っ白で冷たかった。
ろくな防寒具はなかったが、ゾロはいつも着ている分厚めの長袖の上から、少し汚れた黄色のセーターを着て、くすんだ緑色のマフラーを巻いた。十分だと思った。
凍えたって平気だと、ゾロは歩く。サンタクロースを捜すために。
サンタクロースは、ずっとずっと北にある寒い国に住んでいると、絵本で読んだ事がある。
家の中で温かく過ごす人達を窓から覗きながら、ゾロは村を一周してしまった。
小さな村とは言え、子どもの体には随分と負担をかける。
手も、足も、顔も。全部冷たくて、痛かった。
動かすだけで痛みの走る手を、息で温める。少し温かくなるが、すぐに元に戻ってしまった。
それを何度も繰り返していた。
サンタクロースがたくさんの子どもにプレゼントを一晩で渡さなければならないのなら、もしかすると一人じゃないのかもしれない。
だったら、この村にも一人位は隠れて、イブの夜を待っているのではないかと思った。
しかし、パン屋も起きていないような朝早くから、村をずっと歩き回った。
その結果がこれだ。こんな小さな村にはいないのかもしれない。
ゾロは悲しげに笑い、サンタクロースはいないんだと言ったサンジの顔を思い出した。
その顔が余りにも鮮明に頭に浮かんで、ゾロは泣き出しそうになった。
顔が歪んで、押さえ込んだ声が零れると思ったとき。小さな声が聞こえた。
雪に吸われた、本当に小さな小さな声だった。
「坊主。そこの坊主。」
辺りを見回せば、大通りから細い路地に入る道がある。その向こうから声は聞こえた。
村は小さいから、この村でゾロの名前を知らない大人はいないはずだ。
でも声の主は、ゾロを坊主と呼び、名前を呼ばなかった。その場にはゾロしかいない。
少し怖いが、ゾロは路地をそっと覗く。
路地の奥。
薄暗いそこにも雪はしっかり積もっていて、まるで白い小さな部屋のようだった。
白い部屋には男が一人座っている。真っ赤な頭の、赤いシャツを着た男だった。
















これはクリスマスに起きた、不思議でも何でもないお話。何でもない出逢いと別れ。
















温もりを感じない石。色とりどり鮮やかだが、冷たい硝子の窓。
「で。ゾロは何でサンタクロースを捜しているんだ?」
誰も居ない教会の中、固い空気と冷たい壁で声はよく響いた。
礼拝堂を前に並べられた長椅子の背もたれに腰を掛け、赤い頭の男は同じく長椅子に座る少年、ゾロを見た。
「だから、言ったろ。サンジがサンタさんはいねぇって言うからだ。」
サンジ君ねぇ。男はニヤニヤと笑いながら、正面に立つ女神像を見た。
薄く微笑んでいるその顔は、少し悲しげだと思った。
「サンジはな、俺よりもずっと頭がいいんだ。勉強だって出来るんだ。」
男は自慢げに話すゾロは見ず、じっと女神像を見たまま相槌を打っている。
「俺の知らないことを、何だって知ってる。凄いんだ。」
でも。
急にゾロの声のトーンが落ちた。像を見ていた男の視線が、音もなくゾロへと移動する。
「でも、サンタさんはいないって言うんだ。」
「何でも知ってるサンジ君が言うんなら、そうなんじゃねぇの?」
ゾロは黙ってしまった。じっと足元を睨みつけて、下唇を噛んでいた。
男は再び視線を像へと戻す。
真っ白の石で出来た女は、それはそれは美しいと思った。
ふと、自分の着ているシャツを見ると、髪と同じく赤い色をしている。自分のものではない、それは明らかに人の血だった。
女の着ている、白い服が欲しいなと思った。
「サンタさんがいないって言ってた時の、サンジの顔。」
全く別の方向に意識を置いていた男は、急なゾロの声に視線を向け、ん?と聞き返してしまう。
「サンジ、俺に言った時。泣きそうだったんだ。」
だから。
「だから。サンタさんがいるって事を証明してやるんだ。」
「・・・。」
少しの間。
男は、ふーんと言って、再び女神像を見上げた。
ゾロも同じく像を見た。白い顔に、表情は見えないと思った。
暫くして、よいしょと男が腰を上げる。男が背もたれに座っていたから、立ち上がると長椅子は不安定に揺れた。
高い位置にある男の顔は、座ったままのゾロを見下ろす。
「よし、ゾロ。助けて貰った礼だ。いいこと教えてやる。」
顎を上げ、像に向かって男は、へっと笑った。神様に唾をかけるような仕草だと思った。
「俺はな。実はサンタクロースだ。」
















出来る事なら。大好きなあの子が、笑えばいい。
それだけ。
















『・・・なんだよね?』
『え・・・?』
『あんなの信じてるなんて、みんな子どもよねぇ。』
『だって、一人で寝てても朝起きたら枕のとこにあるんだよ。置いといた靴下の中に。』
『何言ってるのよ。寝てる間に、そうしててくれるんじゃない。』
『でも、じゃあ。俺のは・・・ゾロだって。』
『お父さんとお母さん、いないのにね。』
『だから、シスターが置いておいてくれるのよ。』
『・・・。』
『ねぇ、サンジ君知らなかったんじゃない?』
『知ってるわよ。サンジ君、頭いいもの。ねぇ。』
『うん・・・。知ってたよ。今日、シスターにプレゼントをお願いしに行くんだ。』
『ほら。知ってるじゃない。大人だもん、サンジ君は。』
















教会の裏手に、二階建ての家がある。シスターと、子ども達の住む家。
少し立て付けが悪くて、強い風が吹いたら天井辺りから音が響く。そんな家だ。
2階の窓からは丁度、礼拝堂にいる女神像の後ろのステンドグラスが見える。
赤い色。黄色い色。緑色。どれもこれも原色で、光が当たらない時間は、暗く不気味に自分を見張っているように見えた。
自分の勉強机に座り、窓からそれを眺める。
朝からサンジは外へ出ようとしていない。
それは村を白く染める雪のせいではなく、ゾロと喧嘩をしたからだ。
つまらないことだ。
珍しく朝早くに目を覚ましたゾロと話をしていた。明日に迫るクリスマスの話だ。
楽しみだと話すゾロに、サンジは学校帰りに話たことを言っただけだ。
ゾロに、サンタクロースが本当はいないのだと、そう言っただけだ。
ゾロが無茶苦茶に言って跳び出ていったドアを見る。
酷く耳障りな音をたてて閉じたドアは、自分の役割をきちんと果たし、隙間を作らぬよう静かにサンジを閉じ込めていた。
ドアの下には歪んだカレンダー。乱暴にゾロが出て行った時、いつもの場所から落ちたのだ。
そっと拾うと、クリスマスイブにはサンタクロースのシールが貼ってある。
12月に入った頃、ゾロと一緒に貼ったシールだ。
サンジは溜息をついた。子どもらしからぬ、深い、酷く疲れた人のようだった。
泣き出しそうだった。
















『教会の子には、お父さんもお母さんもいなくて、でもクリスマスに何もないなんて可哀想じゃない。』
『だから、シスターが?』
『そうよ。だって、クリスマス前になると、シスターは町に行くでしょ?』
『そうだね。買い物に行って来るって言って。帰ってくると、いつも大荷物なんだ。』
『馬車で帰ってくる時もなかった?私、お父さんが迎えに来てくれた時に見たの。』
『よく知ってるね。』
『私のママも見たって言ってた。毎年たいへんねって。』
『シスターは優しいもんね。』
『そうなんだ。シスターは優しいから。』

優しい、優しいシスター。
クリスマスになると、いつも悲しそうに笑うんだ。
ご馳走を作ってくれても、これしかなくてごめんねって言うんだ。
でも、サンタクロースからのプレゼントを開けると、いつだって。そう、いつだって嬉しそうに笑うから。
だから、去年サンタクロースに貰ったマフラーを、今年もゾロと着けていようと約束した。
シスターの手はいつも冷たい。
シスターはいつだって疲れている。
シスターはお父さんとお母さんがいない自分たちだって、愛してくれる。
優しい、優しいシスター。
そんなシスターに、これ以上迷惑をかけちゃダメなんだ。そうだ。ダメなんだ。
サンタクロースを待つ子どもじゃ、ダメなんだ。
















冬の陽は早く沈む。
夕食の準備が出来た頃は、辺りは暗闇だ。
礼拝堂には蝋燭が立てられ、その光がステンドグラスの色を鈍く揺らしていた。
暗くなった部屋をサンジは後にする。
階段を降りキッチンへ行くと、シスターが作った食事を、子ども達が広間のテーブルへと運んでいた。
サンジは自分の食器を持って、鍋の中身をかき混ぜているシスターの後ろに立った。
もうみんな準備を終えて、テーブルに座っているのだろう。
シスターは、微笑みながらサンジの持つ食器を受け取った。
「サンジ君。今日はゾロ君と一緒じゃないの?」
「うん。」
元気のない声に、また喧嘩したの?と困ったように笑う。
鍋を一混ぜ。中身を掬って食器の中へ流し込んむ。
ふわりと湯気が舞った。ホワイトシチューだ。
「じゃあ、今日もゾロ君は後から食事かしらね。」
「まだ帰ってきてないの?あいつ。」
「そうみたいなの。お皿持ってきてないからね。」
あの子も沢山食べるから、少し多めに残して置かないとねと、また微笑む。
「さぁ、サンジ君。先に食べてしまいましょう。あの子のはまた温めてあげるから。ね。」
広間で待っている子ども達は皆、サンジとゾロより幼い。泣き出す前にと、シスターはサンジの背を優しく押した。
サンジはそのまま数歩進むが、ドアの前で止まってしまう。
「サンジ君?」
「シスター。」
後ろを向いたまま喋るサンジに、不安を覚える。
ゾロとサンジは仲がいい。だからこそ、喧嘩して帰ってこないゾロが心配なのだろうか。
「ゾロ君が心配?」
「違う。」
シチューを見つめていたが、サンジの目は全然違うものを見ているようだった。
じっと、重量感のある力を込めながら。
「俺、サンタクロースの正体知ってるんだ。」
「え?」
「だから、もう俺のところにはいいよ。他のちっこいのにやってよ。」
「サンジ君。」
「俺、もう子どもじゃないよ。サンタクロースなんているわけないじゃん。」
後は笑ってシスターを振り返ればいい。
サンジは自分がどんな顔をしているか分からなかった。でも、笑えていたと思う。笑えていたはずだ。
なのに。
何を失敗したんだろう。
シスターは淋しそうに笑って、そうなのと言った。
















『見ろよっサンジ!!マフラーだ!!』
『うおっ!俺もだ!!』
他の子ども達よりも早く起きてきた二人は、大騒ぎで広間へ駆け下りてくる。
冬になれば、村の子ども達が皆持っていて当然のものなのに。
二人はそれをとても大切なものだと言わんばかりに優しく持ち上げ、ふわりと抱きしめ顔を埋める。
そんな様子を、おはようと言って、暖炉の前に座って眺めていた。
『見てよ、シスター!!』
『ほら!』
首に巻きつけると、ふわふわとその感触に心地よさそうに笑って、シスターのもとへ走り寄ってくる。
『サンジとお揃いだっ。』
『俺が黄色で、ゾロが緑色なんだ!サンタクロースってじいさんなのに、センスいいよなぁ。』
『なー。』
教会にいる子ども達は片手では足りない人数で、二人は特に食べ盛りなのに満足に食べ物も用意できない。
プレゼントだって、きっと、もっと欲しいものがあるだろうに。
でも、ごめんなさいねと謝るのは、喜んでくれているこの子達に失礼だと思う。
シスターは、二人共とても似合っているわよと、自分の貰ったいっぱいの幸せを込めて微笑んだ。
















9時にはお布団の中へ。
これは教会で暮らす子ども達の決まりだった。
8時半になると、年長であるサンジとゾロで他の子どもの部屋を見て回る。
おやすみなさいと挨拶をして、布団の中へ入ったかを確認する。
それが、サンジとゾロの一日の最後の仕事だった。
今日はサンジ一人だった。ゾロが帰ってきていなかったからだ。
暗闇の部屋で、サンジが静かに目を閉じようとした時、小さな音とともに光の筋が部屋を突き刺した。
ゾロが帰ってきたのだ。すぐに扉は閉じられ、部屋は暗闇を呼び戻す。
二人のベッドは二段ベッドで、下はサンジが、上はゾロが眠ることになっていた。
布ズレの音が近付いてくる。一瞬、ヒヤリとした空気を感じた。
ゾロは外から帰ってきたばかりなのかもしれない。
ギシギシと、ベッドの階段を上がる音とともに、ベッドが苦しげに揺れていた。
「ゾロ。」
音と揺れが止まる。階段の途中に、黒い固まりがあった。ゾロだ。
「こんな時間まで、どこ行ってたんだ。」
責めるように言う。
ゾロが部屋を跳びだしたのは、サンジとの喧嘩が原因だが、だからと言って寝る時間に帰ってくるなんて、と。
だが、ゾロはすぐには答えず、別にとだけ言って、再び階段を上って行った。
予想はしていたが、ゾロの身勝手さが頭にくる。
「どうでもいいけど、シスターに迷惑はかけるな。」
また責めるように言う。
「分かってるよ。」
今度はすぐに答えた。
















目が覚めると、また一層深く雪が積もっていた。
雪が音を吸い込んで、静かな朝だった。太陽が反射して、キラキラと魔法のようだった。
朝早くから起きて、シスターは食事の支度をしている。 サンジはそれを手伝うために、他の子ども達より早く起きてキッチンへ向かう。
ゾロの眠るベッドを覗いてみたが、そこには誰もいなかった。もう起きて行ってしまったのだろう。
「シスター。おはよう。」
「おはよう。サンジ君。」
いつものように広間は暖かい。早く起きたシスターが、暖炉に火を入れてくれているからだ。
キッチンも、火を使っているからか、幾分温かい。
「あれ?」
辺りを見回す。毎朝、手伝うために早く起きるくせに、暖炉の前でウトウトしてるはずのゾロがいない。
「シスター。ゾロは?」
「ああ。ゾロ君は、礼拝堂の掃除をしてくれるって、さっき出たのよ。」
掃除しながら食べるって、パンとミルクを持って行ったわと、シスターは微笑みながら言った。いつもの優しい微笑みだった。
ゾロはそんなこと、これまで一度も言い出した事ない。
やったとしても、いつだって二人で相談して、二人でやった。
サンジは不思議に思ったが、昨日の夜、帰りの遅かったゾロを自分は責めたことを思う。
責められたことを気にして、シスターのために何かしようと考えたのかもしれない。
ゾロはシスターと一緒で、優しいから。
そんなゾロが、サンジは大好きだったから。
















サンタクロースと名乗った男が、目の前でパンを齧っている。
「いやぁ、助かるよ。ゾロ。」
「サンタさんも腹が減るんだな。」
あったりまえだろーと、笑いながら男は言った。口の中のものが少し飛んで、汚いなぁと思った。
「なぁ、サンタさん。サンジにプレゼント運んでやってよ。」
ミルクの瓶を男に差し出しながら、ゾロは言った。
見上げる視線に目を向け、男はゾロを見る。
「そうだなぁ。」
そういって、男は胸ポケットから一枚の写真を取り出した。古くて、黒ずんでいた。映っているのは、一人の男の子だった。
「こいつを知ってるか?」
写真の色は褪せているが、黒い髪。左目の下に刃物で出来たのだろう傷跡。
男の子の視線の先には、一体何があるのだろうと、ワクワクさせるくらいの笑顔。
「知らない。誰?」
そうかと言って、男は写真を元のポケットへ戻す。
「だったら俺は、そのサンジとやらのサンタにはなれないな。」
「え!!何でだっ!!」
ビックリして、ゾロは男に跳び付いた。急に言うものだから、急に消えてしまうかもしれないと思ったのかもしれない。
「あのな、ゾロ。世界にはな、サンタクロースは沢山いるんだ。」
ゾロを落ち着かせようと、その大きな手で、男はゾロの頭を撫でる。
「世界って広いだろ?いっぱい国があるんだ。」
「うん。地図で見た。」
「そうだ、偉いな。」
だから、その国々に、その町々に、村々に、サンタクロースは隠れている。
普段は普通の生活をして、クリスマスの時期になると自分の担当の子どもにプレゼントを運ぶんだ。
「たんとー?」
「おう。この子に上げますって、決まってるんだ。」
「誰が、決めるの?」
勿論、サンタクロース本人だ。その子の頑張りを見ていたサンタかもしれないし、その子が大好きなサンタかもしれない。
俺の担当は、この子なんだ。
「知ってる子?大事な子なの?」
「そうだな、俺の息子みたいなもんだ。違うけどな。」
だからダメなのか?ゾロは今にも泣き出しそうな顔で男を見上げた。
「ああ。でも、この子の居場所が分からなくてな。クリスマスには間に合わないだろうな。」
男は物悲しげに視線を落とす。
その目は、冷たい床を通り越して、建物の下の土だって通り越して、あるいはこの星の裏側さえも通り越して、どこか遠くを見ていた。
「だから、ゾロの言う、サンジってやつのサンタになったっていいのかもしれない。」
「じゃぁ!!」
「でもな。」
でもそれは違うんだよ。俺は、サンジを知らない。サンジが何を好きで、何を頑張ってきて、何を大切にしているか知らないんだよ。
それじゃぁ俺は、サンジのサンタになれない。
「でも。じゃあ、サンジはもうサンタさんから何も貰えないの?」
そうだなぁ・・・。男は天井を見上げて口を開けた。何か考えているようだ。
「サンジのことを大好きなサンタはどこかにいないの?」
















ゾロのいない朝食が始まった。
まだ幼い子ども達は、口の周りを汚しながら、豪快に食べている。
ミルクを飲んで、鼻の下に白髭が出来ている子もいた。
サンジはパンを一口大に千切って、口にいれた。いつもゾロが座る椅子を眺めている。
「サンジ君。また後で、ゾロ君の様子見てきてくれるかしら?」
向かいのテーブルに腰掛けるシスター。サンジは、ええと答えた。
手元のパンをまた千切る。そのまま口に運ぶ。
「サンジ君。」
呼んだシスターに視線を向けると、今度はシスターはこちらを見ていなかった。
「今夜のクリスマスパーティーは、一緒にしてくれるのよね?」
「・・・勿論だよ、シスター。」
サンジは思う。
シスターに迷惑をかけているのは、ゾロなのか、サンジなのか。
















『俺は、サンタさんじゃないけど、サンジが好きだぞ!』
『そうか・・・。じゃぁ、こうしよう。ゾロ、お前がサンジのためにプレゼントを用意しろ。』
『え?俺、金ない。』
『ばっか。こういうのはね、気持ちなわけよ、気持ち。分かる?』
『・・・ホントに何もない。』
『嘘だね。絶対に何かあるよ。何もないなんてない。』
『・・・。』
『大好きなんだろ。サンジが。』
『うん。』
『だったら、大丈夫だ。頭遣いな、ゾロ。』
『・・・うん。』
『そんで、俺が変わりに届けてやる。ゾロサンタの、プレゼント。』
『え?』
『そしたら、俺はサンジのサンタじゃないけど、サンジにはサンタからのプレゼントが渡せるだろ。』
『俺がサンタさんになるのか?』
『そうだな。うん。これからの未来、ゾロがサンジのサンタになってやれよ。』
『すげぇ・・・俺、サンタさんになるのか・・・。』
『で。今回は他のサンタの力を借りる事になるわな。』
『うん。』
『ゾロ、交換条件だ。』
『こうか?じょ?』
『俺は今年、自分の担当の子にプレゼントを渡す代わりに、サンジにプレゼントを渡す。その代わり、ゾロ。
お前の何かをくれ。大事な事を蹴ってまでやるんだからな、それくらいあってもいいだろ?』
『何か?だから、俺何もないって。サンジのプレゼントもどうしようかって・・・。』
『おっ。そのマフラーくれよ。』
『え!ダメだ!!これは、サンジとお揃いなんだっ!!!』
『俺は、大切な人のための時間をゾロに渡した。ゾロは俺に何をくれる?』
『・・・大切なものは、大切なものでお返ししなきゃ・・・だめだ。』
















サンジはいつも通り、自分の部屋の窓から教会のステンドグラスを眺めた。
たくさんの破片が集まって出来た絵は、礼拝堂にある女神像を描いたものらしい。
欠片は大雑把で、それが美しい女だとは思わなかったが、優しい立ち姿だとは思った。
ゾロはどのくらい掃除をしたのだろう。
頬杖をついていた手を下ろし、椅子を降りる。そのまま部屋から出た。
教会は家のすぐそこだが、外は寒いだろうとマフラーを巻いた。
サンジはまだ、サンタクロースを思う。
一体誰が考えたのだろう。
その誰かは、何て迷惑な事を考えてくれたのだと。こんな不公平に。
玄関の大きな扉を開く。体を刺すような痛みを連れた風が吹いた。思わず目を瞑る。
外へ出て、扉を閉じる。雪でも降りそうな寒さだ。
サンジは顔をマフラーに埋めるように、肩に力を入れた。息を吐くと、白い湯気になる。
教会の扉を見る。ほんの少しの距離が、酷く遠く思えた。
ゾロは寒くないのだろうか。朝早くから、暖房もない礼拝堂の掃除だなんて。
少し心配になりながら、サンジは歩き出した。すると。
教会の扉から、家とは正反対の方向へゾロが飛び出していく姿が見える。
いつもと同じ服で、でもマフラーを巻いていないためか寒そうに見えた。
どこへいくのだろう。
余りの速さで見えなくなった背中に、サンジは声を掛けられなかった。
















村は貧しい。
冬は雪が積もるため、仕事が減るからだ。
だから冬、大人たちは町へ出て金を稼ぐ。
モノを買うには金がいる。
金を手にするには働くしかない。
何かが欲しければ、働くしかない。
金は、欲しいモノを手に入れる手段。
例え飴玉一粒だって、金がなければ手に入らない。
















教会の扉は無駄に大きい。子どもが前に立てば、巨人の家に入るようだ。
サンジは扉を、小さな体の全体重を込めて押し開けた。扉は重々しい音を立てながら開く。
ゾロが出て、誰もいないはずの礼拝堂。確かに誰もいない。でも何か。
「誰?」
何かの気配がしていた。冷たいはずのその場所に、ほのかに温もりを感じたのだ。
「誰かいるよな?誰だ?」
中に入ると、扉がその重さで自動的に閉じる。二度と開かないのではないかと思わせる音が、礼拝堂内に響き渡った。
女神像に向かってゆっくり歩いていく。わざと音を立てて歩いて、怖さを紛らわせていた。
張り詰めた空気に耳が痛む。
女神像の正面真下の長椅子。古い毛布が草臥れたように、広がっている。触るとまだ温かい。
微かに、生臭いような匂いがする。獣のような。
固くて動かなかった空気が揺れる。ほんの少し。
サンジは首筋がピンとするのを感じた。振り返る。
教会の入り口。巨人の扉の前に、男が一人立っていた。
燃えているかのような赤い髪の男。ギラギラとした目で、サンジを真っ直ぐに見ていた。
「お前が“サンジ”か?」
サンジの背に一気に恐怖が走る。一歩後ろへ下がった。
女神像の冷たい台座に背中が触れる。
男は陰を落とし、ニヤリと笑った。
獰猛な笑みだった。
















空が暗くなり始めた。冬の夕方だ。
ゾロは一日中、村を駆け回っていた。
手足は赤みを増しているだろう。
手は今にも弾けそうなほど腫れていた。水仕事をした後のように。
服の裾には泥が跳ねていた。顔にも少し跳んでいる。
でも、ゾロが何をしていたかは秘密。ゾロ自身、誰にも言わないだろう。魔法の種だからだ。
右手に小さな赤い袋。緑のリボンがよく映えていた。
短い息を吐きながら走り、勢い殺さないまま教会へ飛び込む。
「サンタさん!用意したよっ。」
手にしていた赤い袋を掲げる。
男は、相変わらず一番前の長椅子に座り、女神像を見上げていた。
首にはゾロの渡したマフラーが巻かれている。それだけが温かそうだった。
「これでサンジのサンタさんになってくれるんだよな。俺、ちゃんとプレゼント用意できたもんな。」
はいと、手のものを男へ渡そうと見せるが、男はそれを受け取らない。そして、女神を見上げていた顔を、ゾロへと向けた。
じっと見ていた。怒るわけでも、悲しむわけでもなく。でも何か言うのだろうと、ゾロは言葉を待った。
「ゾロ。俺はサンジのサンタをやれなくなった。」
「何で?約束したのに!」
「サンジに見つかった。」
えっ?ゾロは言葉をなくす。男は表情を変えないままに、喋り続ける。
「少し話をしたよ。ゾロ、俺はサンジが嫌いだ。」
だから、サンジのサンタクロースにはなれない。
















『サンタクロースを信じていないんだって?』
『だったら何?おっさんに関係ないじゃん。』
『ゾロがサンジのためにサンタを捜すって、走り回ってたの知ってた?』
『・・・バカゾロ。』
『そして、俺を見つけたんだ。俺、サンタクロースなんだぜ。』
『おっさん。ゾロのバカに付き合わなくてもいいよ。あいつ、まだ子どもなんだ。』
『可愛くないねぇ。俺は本物だぜ。』
『随分と血生臭いサンタだなぁ。どこから来た。人を呼ぶぞ、出て行け。』
『・・・。』
『大体、あんたの服。赤いのかと思ったけど、それ。血なんじゃねぇのか?』
『戦うサンタなんだよ。皆のプレゼントを悪い奴らから守るためにね。』
『もう黙れよ、おっさん。大体なんでアンタ、ゾロのマフラー着けてんだ。泥棒か?』
『これはね、取引。お前のサンタをしてやる代わりに、ゾロがくれた。』
『余計なお世話だ。そんなのいらねぇから、マフラー返せよ。大事なもんなんだ。』
『何でお前に返さにゃならんのよ。返すならゾロにだろ?』
『俺からゾロに渡す。お前は出て行け。』
『・・・。』
『サンタクロースはいねぇよ。子どものために大人が作った御伽噺だ。』
『・・・お前は、サンタクロースを殺してしまったんだな。』
『?』
『お前は、確かに頭がいいのかもしれない。でもだめだ。』
『は?何言ってんだ?』
『お前のサンタは一人死んだ。殺された。お前にだ。』
『意味分かんねぇこと言ってんじゃねぇ!』
『いや、信じることを、願う事を止めてしまったのなら、殺したも同然だ。存在できない。お前の中でさえ、住む事ができなくなるからだ。』
『意味わかんねぇよっ!サンタクロースは自分の親なんだ。俺にはいねぇよ。ゾロにもだ!』
『だからお前はそうやって、殺したんだろう?去年、このマフラーをくれたサンタを。』
『え・・・。』
『俺はお前が嫌いだ。俺はお前のサンタにならない。お前にサンタはやってこない。』
















小さな村の中心に建つ、不似合いな教会に住む子ども達とシスターのクリスマスパーティー。
ささやかだけど、溢れんばかりの笑顔の中で。
キャンドルは皆を照らす。暖かな光。オレンジ。
子ども達は疑わない。たった一人を除いて。
今日はクリスマス。
さあ、サンタクロースがやってくる。
















『約束を破る事になるな。ゾロ。』
『・・・。』
『俺はそろそろ、ここを離れるよ。あいつを捜しに行かなきゃならない。』
『いつ?』
『今夜にでも。』
『・・・やっぱり、サンタさんなんだな。クリスマスが終わったら帰るんだ。』
『マフラーは返すよ。俺は何もしていない。何もしない。』
『いや、それはやっぱりサンタさんのもんだ。』
『俺はサンタクロースじゃないよ。少なくとも、お前やサンジの。』
『だって、サンタさんは俺のサンタクロース先生だ。』
『・・・お前は、本当にいい男になると思うぜ。ゾロ。』
『なぁ、もう一個お願いしたい。』
『何だ?』
『俺がちゃんとサンタさんになれるか待って。それまでは行かないでよ。』
『そうだな。そりゃあ、先生としての責任だな。』

・・・ありがとう。サンタさん。
















パーティーが終わり、キャンドルが消えれば、そこは静かな闇の世界。
人はその闇を聖夜と呼び、子どもは眠り、大人は息を潜めるだろう。
そこへ少年サンタクロース。今夜は彼の初仕事。
ソリに乗るには、まだ幼い。
トナカイを連れるには、まだ浅い。
たくさんの子どもへは、まだその手は小さいからと、今夜たった一人のサンタになる。
本当は両手一杯の花束や、食べきれないくらいのお菓子。
村外れの屋敷に住む女の子が乗っているようなピカピカの自転車、乳母車を押してくれるはずだったお母さん、お父さん。
でも今渡せるのは小さな小さな赤い袋で。
それでも、ほんの少しでも喜んでもらえればいい。
少年サンタクロースは、それだけを願っている。
少年サンタクロースは、それだけのためにいる。
















星の光と微かな街灯のみが照らす部屋は、住み慣れたせいか、隅々まで見えなくとも音を立てずに身動きがとれる。
二段ベッドの上から降りる時、使い古された不安定な階段は軋んだ音を鳴らしたが、それも一瞬。
気配を殺して空気になり、降り立つ。
そっとベッドを覗き込めば、大好きな子が優しく目を閉じていた。穏やかな寝息とともに、夢の世界へ入っただろうか。
普段、ゾロはサンジより早く眠ってしまう。こんな風に寝顔を見ることなんてなかった。
赤い袋をそっと枕元へ置くと、袋がカサリと音を立てた。
サンジは、サンタクロースはいないと言った。
ゾロにとって、サンジの言葉は絶対だった。
勉強も人一倍して、頭がよく、ゾロの知らないことを何だって知っていたからだ。
ゾロはいつだってサンジを尊敬していた。
サンタクロースは、本当にいないのだろうか。
でも、ゾロは知ることが出来た。サンタクロースを知ったのだ。
この優しい気持ちを、人はサンタクロースと呼ぶのだ。
サンジのサラサラの髪を撫で、ゾロは泣きそうなほどの愛しさを感じた。
しかし。
「何してるの?」
心地よい風、靡くような空気を引き裂く。声は今、触れている人からで。
ゾロは目を見開く。仄かな光の中でも、はっきりと分かるサンジの瞳の色。
「ゾロ?」


さて、少年サンタクロース。御伽噺はお終いですよ。
ジングルベル、ジングルベル。それは時間切れのお知らせです。
雪の魔法も陽に溶ける。あなたの気持ちも、もう消える。


警報が頭の中に響き渡る。サンジの声に答えず、ゾロはその場から逃げ出した。
失敗だ。
サンジに触れたりするからだ。
失敗だ。
少年の魔法は解ける。鳴り響くは、サイレンの音。
聖夜に踊る鈴の音なんて、ちっとも聞こえやしなかった。
















『初めまして、こんばんは。シスター。』
『初めまして。こんな時期に、教会へ?この村ではクリスマスは個人で祝います。教会へ来られても、何も出来ないのですよ。』
『いえいえ、女神さんにならもうお祈りは済ませました。あなたに用があるんです。』
『あら、何でしょうか?』
『今夜は冷えますね。サンタクロースが働けるか心配です。』
『・・・ええ、そうですね。』
『サンジと言う子がいると思います。サンタは、彼にプレゼントを渡しますか?』
『・・・彼はそれを望まないと言いました。』
『サンタに伝えてください、まだ消えないで下さいと。もう一人の彼のサンタクロースが、そう願っているんです。私はそれを伝えに来ました。』
















彼らに笑顔を。
ただ信じ続ける想いを。願いを。そして、その幸福を。
















ゾロは裸足で飛び出した。
部屋を飛び出し、家を飛び出し、村を出る道を走る。。
サンタクロースはその道を辿って街を出るはずだったからだ。
積もった雪が体温を奪っていく。冷たさは足の感覚を攫い、痛みをも連れ去った。
それでもゾロは足を止めない。
町外れに近くなると、見慣れた緑色のマフラーを着けた男の背中が見えた。
「サンタさん!!待って!!!」
泣きそうだった。失敗したことが怖かったのだろうか、分からない。でも、今に涙が溢れそうだった。
振り向いたサンタクロースの足に必死に縋りつく。何かの痛みに耐えるように、ギュッと、ありったけの力を込めた。
「どうだった?」
「・・・。」
乱暴に頭を擦り付ける。ゾロは答えない。それだけで十分何があったか分かった。
「バレた。サンタさん失格だ。サンジにっ・・・。」
ゾロの小さな頭を、大きな手で撫でてやる。
何に不安なのか。ゾロ自身も分かっていないだろうことを、知ることなんて出来ない。
そっと寄り添うことしか出来なくて、でもその大きさに、じっと耳を澄ませていた。
視界の中に何かがハラリと舞う。
顔を上げると、また雪が降り始めていた。どおりで冷えるはずだと思った。
ふと視線を下げると、目の前、少し離れた場所に少年が立っている。
黄色い髪を乱し、足元から離れようとしない子と同じく裸足で。
そのくせ、マフラーだけ巻いている。部屋着に裸足でマフラーと、実にアンバランスだ。
走ってきたらしく、白い息を必死に吐き出している。
「何で逃げんだよ・・・ゾロ。」
サンタクロースはそっとゾロの顔を上げてやり、サンジの方へ身体を向けさせる。背中をポンと優しく打った。
「帰るぞ。寒いだろ。」
「・・・うん。」
鼻水を啜りながら、ゾロはゆっくりサンジの元へ歩いた。
俯き顔のゾロの頬に、サンジはそっと手を当てる。それにゾロが答えるように、サンジを見た。
「こんな寒いのに、泣きやがって。濡れたら、もっと冷たくなるんだぞ。風邪ひくだろが。」
そう言って、自分の服で拭ってやる。
もう大丈夫。
男はそっと背を向けた。目を伏せ、捜し求めるあの子を思った。
「おっさん!」
お邪魔だったかと思ったのだが、そうでもなかったようだ。男は後ろを振り向く。
サンジが駆け寄ってきた。ゾロは立ち止まったままだ。
目の前まで来たサンジは小声で話し出す。どうやら、ゾロには来るなと言ったらしい。
「あんただろ。ゾロにあんなことさせたの。」
「違うよ。ゾロがしたいって言ったんだ。あのプレゼントも、ゾロが自分で用意したんだ。」
その証拠に俺はプレゼントが何だか知らない。
「でも、分かってんだろ?あれを用意するためには、ゾロは何をしなきゃだめだったか。」
嫌いだと言った時とは全く違った笑顔で答えると、悔しげに、それでも笑っているサンジがいた。
これはゾロの力だ。少年サンタクロースは大きな魔法を成功させた。
「あの短時間だ、大したもんじゃないだろうけど。」
お前は、高価なものが欲しかったんじゃないだろう?
そういうものを求めていたわけじゃないんだろう?
ムッとした顔で、でも否定しないサンジ。
「もしお前がそんなヤツなら、ゾロはお前のためにサンタクロースを探すだなんて言わねぇよ。」
フーと鼻で大きく息を吐く。煙草の煙のように、鼻から白い煙が出た。
「さて、行くか。じゃあな。」
ゾロへ軽く手を振って、村に背を向ける。
凍えそうな空気は、その場所だけ切り取られたかのように温かい。自然と微笑みの生まれる世界。
「おっさん!!!」
「まだ何かあんのかよ。」
ウンザリ顔で振り返ると、視界を遮られると同時に軽く衝撃を受ける。
急な事に驚くが、手にしてみるとマフラーだった。サンジの使っていた、黄色いマフラー。
「俺からの礼だ!そのマフラーは、二つで一つなんだ!!」
じゃあなと、ゾロの元へ帰っていく。もう一度二人で振り返り、手を振った。
手を繋いで帰っていく二人に、自分とあの子を重ね無意識に頬が緩む。
お揃いのマフラー。片割れはあの子へ渡そう。きっと、寒さを凌いでくれる。
胸のポケットから写真を取り出し、笑うあの子に、なぁと声を掛けた。
そんな自分にまた笑いながら、男は去って行く。
もう呼び止められることも、自ら振り返ることもなかった。
















その夜、二人は同じベッドで眠った。向かい合い、手を繋いで。
二人の間には赤い袋。緑のリボンの解かれた袋からは、五つの飴玉が転がっている。
アップル、オレンジ、レモン、メロン、グレープ。
そして、枕元には二つの包み。
微かに香るのは、暖炉の温もり。女性独特の、甘い香り。
子ども達に安らかな眠りを届ける、シスターの匂いだ。
二人のサンタクロースからのプレゼント。
部屋の入り口に掛けられているカレンダー。
24日にはサンタクロースのシール。
サンタクロースは曇りのない笑顔で二人に笑いかけてくれる。
目覚めた時に、とびきりの笑顔がありますようにと。










Happy Merry Christmas.










end



子ども→ゾロとサンジの年齢
写真→自称サンタ男のポケットの中身
カレンダー→部屋に掛かった、サンタのシールの貼られたもの
教会→お話の舞台
プレゼント→サンタが出ると、何かと沢山出てくるので楽だなぁと思った自分の御題(笑)

随分と長くなった上に、説明不足で読みにくかったと思います。読んで下さって、ありがとうございます!
締め切りギリギリでエライ目に合いましたが、この企画が出来た事事態が私にとって、プレゼントそのものです。
幸せ一杯!!
ゆんさん、舞桜さん、ミナトさん。ありがとうございます!!!

このお話は、世界中に住む、たくさんのサンタクロースたちへ。
皆さんも、ゾロも、サンジも、素敵なクリスマスを。