時間差心中交響曲  #7







「これ。現場の写真。」
翌朝早くにナミが来た。
泣いていたのだろうか、ナミの目は赤い。
「サンジ君が自殺したとこ見た人が居るんですって。だから、調べても無駄だって言われたわ。」
今も泣き出しそうなのだろう。ナミは俯いていてゾロと目を合わせない。
そんなナミを見て居たく無くてか、ゾロもずっと自分の手元を見ていた。
「ああ、俺も聞いたよ。」
何の感情も込めなかったそのセリフに弾かれたようにナミが顔を上げたのを視界の隅で見たゾロは、静かに笑った。
この笑いには何も無い。
怒りも、悲しみも、ただ笑っているだけだ。
ナミは思い、同時に目の前で笑う男を抱きしめてやりたくなった。
だが、その優しさは男の求めるものではない。
ナミは気付かれないよう、差し伸べかけていた手を引き、握り締めた。
「悪かったな。写真、意味無くなっちまった。」
疲れた目でゾロは今日始めてナミと目を合わせた。
「ゴメンなさい。私、期待させるようなこと勝手に想像して言ってた。」
「いや。あの時は俺もお前も冷静な判断なんてできなかったんだ。気にすんな。」
ナミは目を伏せて口を少し開いた。何か言いたげだが、聞きたくない。もう、いい。
「疲れただろ?金にもならないのに働かせて悪かったな。今度奢る。今日はもう帰れ。」
ナミが何か言う前に、気遣うふりをして追い払う。
とても疲れた。
疲れてしまった。





ゾロは相変わらずサンジの部屋のベッドで天井を見上げる。
もう何もするつもりはなかった。
たったの2日程度だったのだが、サンジの死の理由を探す時間は長く、そして重かったように感じる。
サンジは自殺したのだ。
しかし、なぜ自分にはその記憶がないのだろう。
サンジが死んだということがショックで、忘れてしまったのだろうか・・・。
納得できないでいる。
ゾロは何度も見たサンジの手帳を開いた。サンジの書いた字だ。これは、数日前までサンジが使っていた手帳だ。
「サンジ・・・。サンジ・・・。」
手帳に顔を埋めた。少し、サンジのタバコの匂いがしたように感じた。
サンジが傍にいるとき、こんなにも名前を呼んでやった事はなかったように思う。
呼べばサンジは帰ってくるだろうか。
ゾロは名前を呼び続けた。
帰ってこないと分かっていて、呼び続けた。